「シン姉さん!」
「アイン!ただいまぁ!」
この短い期間に色々な事があったせいで、随分とアインと離れていたように錯覚する。実際はそんな事は無いのに、久々にアインにあったような気がして、早く彼の元に行こうと勢いよく壁を蹴って飛び付く。アインは、「わっ、」と声を上げはしたが、しっかりと私の身体を受け止めてくれた。
「おかえりなさい、シン姉さん」
「うん、ただいま」
久々に見た彼の笑顔。思わず頭を撫で撫でしてしまった。
孤児院の皆も火星に旅立ってしまって、私はちょっとホームシックってやつなのかもしれない。アインが可愛くて仕方ない。
幾度もタイムリープして来たけれど、実は、こんなにアインが懐いてくれたのは今回が初めてで、本当に可愛くて仕方ない。上司と部下でなければいけないのに、ついつい姉として、彼を弟のように思って接してしまう。
「私が居ない間、何かあった?」
孤児院の子供達に「学校どうだった?」と問うようなノリで、彼にも訊いてしまって、ちょっとうざったいかな?と一瞬心配になるが、彼は嬉しそうな顔で「俺…」と、私の居なかった間の出来事を話してくれる。
宇宙に戻る時に船に一緒に乗ってた孤児院の子供達とたくさん遊んだ。林檎が出来たらアイン兄にも食べて欲しいと言われた。年長組の方からは、小さい頃にシン姉さんがどれだけ荒れていたのかも聞きましたよ。そして、また今度、機会があったら、皆で地球に――と、たくさん話してくれる。
私は微笑みながら「うんうん」と彼の話に耳を傾けていた。
「ああ、それと…、ボードウィン特務三佐からシュヴァルベ・グレイズを譲り受け、乗ることになったんです」
「そっかあ!シュヴァルベ・グレイズを…!」
え!
「シュヴァルベ・グレイズっ!?」
ギュッとアインの腕を掴んだ。彼がシュヴァルベ・グレイズに乗る事は分かっていたけれど、少し早すぎるのではないか。
ガエリオを救う事は勿論、アインが負傷して阿頼耶識と一体になる――それも防ぐ為に、私が何とかしてガエリオからシュヴァルベを譲り受けて、アインが最前線で戦うことを避けようと思っていたのに。
「シン姉…?」
私が急に叫んだ事に驚いたのだろう。アインは私を怪訝そうに覗き込んだ。
「どうしよう…」と思わず呟く。

「おい、お前らそこで何をしている」
「ガエリオ!」
後ろから聞こえて来た声に、勢いよく振り返る。
見上げた彼は、妙に不機嫌そうな顔を浮かべているが、それはこっちも同じだ。
「ねえ!私もシュヴァルベ欲しかった!アインばっかりずるい!」
「いきなり何言ってんだ。シュヴァルベはもうアインにやったんだ。諦めろ」
人差し指でツンと額を小突かれる。「だいたい、要人警護中心の中隊にいたお前が、俺のシュヴァルベを乗りこなせるのかぁ?」とバカにしたように見下ろす。
うるさいなあ、こっちはモビルスーツの操縦なら君にだって負けない自信があるんだからね。操縦技術は、文字通り、ひどい年季が入っているんですから。全く、こっちの気も知らないで。
「ねえ…アインー…」
ガエリオは諦めてアインに直接交渉するが、アインは「あ、あの…シン姉さん…」と戸惑うばかり。嘘だあ…。お姉ちゃんのお願い聞いてよアイン…頼む…。

「おい、シン」
急にガエリオにグイッと肩を掴まれて顔を近づけられる。
「前々から思っていたが、お前、いつの間に、アインとそんなに仲良くなったんだ?」
「「え?」」
思わず出た素っ頓狂な声。隣のアインと声が被る。
「い、いきなりなに?」
ガエリオに急に責められて困った私は、助けを求めるかのようにアインに視線を送った。
が、それが墓穴を掘っていたらしく、「それだ」と更にガエリオは不機嫌になる。
「えっ?えっ?」
「今、アインに目配せしただろ」
「あの…特務三佐…」
「お前もだぞアイン。さっきこいつの事をシン姉さんと呼んでいたのを聞いていたからな」
「え…あ…、それは…」
二人で焦りだす。いや、別に疚しい事は何もないんだけどさ。なんか、ガエリオの気迫にやられて…。
「シン、」
ギュッっと左手を掴まれる。
まるで、私に指輪の存在を再確認させるかのように。
「お前は俺と同じ気持ちなのだろう?」
「え…、あ…うん…?」
何が何だか分からずに頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。
『私もガエリオと同じ想いだよ…っ、私は…、君を…っ、君を――…』
あ、もしかして、前にガエリオに言ったあの…と、それが脳裏を掠めた瞬間、左手をそのままグイッとされて、引き寄せられる。一気に近くなった距離。耳元でガエリオの吐息が聞こえた。
「浮気は許さないからな」
「、!」
「こっちは、お前が願いを叶えるまでお預けを食らってんだからな」
囁くように責められて、バッと身体を解放される。そのまま慣性の法則でアインの元までふよふよと漂って彼にしがみ付いた。
「シン姉さん…?」
何が起こったのか分からないアインは、心配して私を覗き込んだ。ちょっと、待って、いま、たぶん、ひどい顔してる。
思わず涙目になる。
「…腰に、きた……」
ガエリオは、満足そうに「ふ、」と笑うと、「キマリスを見てくる」とこの場を去って行った。
(一体なんなの!それよりシュヴァルベは!!)
うまい具合にかわされてしまった気がする。

「アインー…、ガエリオがいじめるー…」
「愛されてますね、シン姉さん」




2016.05.06

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