「…―――っ、」
はあ、はあ、はあ、と肩で息をする。
まさか、あのお店を出てすぐに追われるなんて思ってなかった。
ナルバエスは本気で私を探してるんだな、と思う。あいつらに捕まってしまったらどうなるのか、想像すらしたくない。
暗い細道に逃げ込んで物陰に身を潜めた。
「…はあっ、はあ…っ、は…っ、」
先程受け取った拳銃の出番が今来るとは。
腰にあるホルスターに手を伸ばす。此処を突っ切って、そのまま宇宙までトンズラしてしまおうと思った刹那だった。
「…んぅッ?!!!」
急に背後から手が伸びて来て口元を覆われる。
でも、背後を取られた事に驚いている暇は無い。
口を覆われている手。その人差し指を関節とは反対側に引っ張り手を離す。やけに細くて綺麗な指だな、と、不謹慎にも思ったけど、相手がどんな奴であれ手加減はしない。
そのまま体をずらして肘で鳩尾に一発。力が緩んだが離してはくれないそいつ。
「しつこいッ!!!」
相手の左手を右手で掴んで、相手の脇の下をぐるっと一回転。関節技を決めたその時だった。
見覚えのある金髪が視界に入る。

「―――えっ!マクギリス!?」

(な、何で!?)
直ぐ様パッと手を離す。
ナルバエスからの追っ手だと思っていたから、目の前の予想外の人物に驚きを隠せない。
「ごっ、ごめんね…!痛かった…!?」
思わぬ事態に、目の前のこの男がガエリオを殺すと言う事もぶっ飛んで、素で心配して謝ってしまう。
「お前は…強すぎだ…」
相当痛かったのだろう。苦笑を浮かべながら頻りに左の腕と鳩尾をさすっている。
(大丈夫かな…。手加減しなかったから…)
「と言うか、なんでマクギリスがここに?」
「とある人物から、君がナルバエスに追われていると聞いてな」
「とある人物…?」
誰だ、それ。
怪訝な表情で覗き込むと「それは言えない」とはっきり言われた。
「あのねぇ…」
「…―――しっ、!」
グイッと腕を掴まれて引き寄せられる。私はそのままマクギリスの胸に飛び込んでしまい、その両腕で包まれる。
「…まっ、くぎり、す…!(く、くるしい…!)」
「静かに。追っ手が来ている」
ギュッと、息が出来ないくらい強く抱きしめられる。あ…圧死する…。
頭がくらくらしてきた頃、「よし、行ったぞ…」と私を解放するマクギリス。
「わざとやったでしょ…」
本当に追っ手が居たのかも疑わしい。
マクギリスは意地悪な笑みを浮かべた。
「さっきの関節技のお返しだ」
(む、むかつく…っ!)
ギリっと彼を睨み上げると、さして気にしてないようにマクギリスは「さて、行こうか」と言った。
「行くってどこへ?」
振り向いた彼は何度目かの笑顔を向ける。
なんか、嫌な予感が止まらないんですけど…。

「ナルバエス邸に決まってるだろう。」



■■■



―――なんで、私はマクギリスとナルバエスに戻って来てるのだろうか。
久しぶりに見る屋敷に、思わず溜息を吐いた。
ファリド邸やボードウィン邸と比べると小さいが、それなりに広い屋敷内を案内される。久しぶりに来たから私も間取りを覚えていない。
マクギリスが「まあ、家に帰りたがらない気持ちは分かる」と苦笑した。
義父の書斎の前まで案内されると、秘書が数回ノックする。
「旦那様、シンが帰って参りました。それと…」と、科白の途中でドアが開く。
「連絡もしないでのこのこと―――…!!」
そこまで言って、私以外にもう一人居るのが見えたのだろう。言葉を中断して「君は…」と考える。
「申し遅れました。私は、マクギリス・ファリドと申します。シンさんとは昔から仲良くさせていただいています。この度は急にお邪魔して申し訳ありません…」
恭しく頭を下げたマクギリスに、義父は「ファリド…!」と後ずさる。
「シン…、お前…ファリド家のご子息と知り合いだと一言も…」
「私が内緒にしておくように言っておいたのです」
(え?)
思わずマクギリスを見た。
何をするつもりだろうか。ナルバエスまで来てこんな事しておいて。
私を助ける…て事じゃない…よね。
仮にも親友のガエリオを殺す程の男が、こんな事するはず無い。
彼の真意が分からない。
「シンさんが逃げていたのも、私の事を思っての事です…。どうかお許しください…」
「い、いや…ファリド家のご子息のお願いだったら仕方ないだろうな…」
ファリド家のご子息ってのが効いているらしい。義父は今まで私が逃げていた事もあっさりと許してしまった。そしてこちらを鋭い目つきで見る。セブンスターズだ。絶対に逃がすな――そう言われているように思えた。
「こんな所ではアレだろう…。シンの部屋でゆっくりして来なさい」
「…はい。」
「ありがとうございます」

一体、何を考えているのだろうか。



2016.05.03

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