「ばかぁッ!!」
帰って来るなりシンに暴言を吐かれた。
いつもなら言い返すところだが、今回は言い返せない理由がある。
「…ただの擦り傷だ」
コーラルの下衆な誘いに乗って、クーデリア・藍那・バーンスタインの護衛をしている鉄華団を叩く事になったのだが、少しヘマをしてしまい、この通り、傷を負って帰って来た。
何故か「ガエリオのシュヴァルべ・グレイズ貸してよ。私、出撃したい」と、俺の機体に乗って戦場に出たがっていたシンを、マクギリスと二人掛かりで黙らせて出陣したのはつい先程の事。
「絶対に怪我しないで」としつこく言ってくるシン。「そんな失敗はしない」と何とか説得し、渋々納得してもらったのに、帰って来た俺はこのザマだ。
不機嫌な様子で留守番していたシンは、俺の姿を見るなり、誰が見てもはっきり分かるくらい取り乱して俺の元に駆け寄った。そして、正面から勢い良く抱き着いてくる。
「うおっ!?」
「だから…っ、私が出るって言ったのに…っ」
擦り傷とは言ったが、痛いもんは痛い。ちょっとは加減しろ、なんて思うが、なんだかんだ言って想い人からの抱擁だから嬉しい。
「お前が出てたらもっと酷い怪我して帰って来たぞ。俺だったからこの程度で済んだんだ」
シンは俺の胸元に顔を押し付けて「違う…。私も戦える…」と反論する。
「もう…君が…傷付く姿を見たくない…」
“もう”?
疑問が過るが、聞き返せる雰囲気じゃない。
(と言うか…泣いてるのか…?)
震えながら未だにしがみ付いているシンの髪の毛を優しく梳いて、「顔上げろよ」と促す。
「嫌だ」
「泣いてるのか?」
「泣いてないし、ばか」
「じゃあ顔上げろよ」
「……っ、」
「…ほら、」
「…っ、」
観念したのか、ゆっくり顔を上げたシン。
泣いてはいなかったが、目尻に涙が溜まっていて今にも零れ落ちそうだった。
「……そんなに、心配したのか?」
「…私は…いつだって君が心配だよ…」
「何言ってんだお前は…」
静かに苦笑。
目尻に溜まった涙を拭おうと、
優しく頬に手を寄せ、親指で目尻をなぞる。
拒絶もしないで、されるがままに、真っ直ぐ俺を見上げる彼女を見て、身体中に電気のようなものが走った。

「シン…」

「な、に…?」

半ば無意識だった。
涙目のシンが酷く扇情的に見えて。
顎を掴む。
腰を引き寄せて。
流れるように、
シンの顔に――唇に、自らのそれを近付け――…


「…――ガエリオ、そんなとこに居たのか」
「…っ!!」
後ろから聞こえたマクギリスの声に、ハッとしてシンから身体を離す。
(俺は…っ、今…っ、無意識に…!!)
目の前のシンは驚いた表情で此方を見上げている。そりゃそうだろうな。これは完全に俺が悪い。
「あ、あの…私…、ちょっとお手洗い行って来る…」
目が泳いでいる。この場から逃げ出す為の嘘だとすぐ分かった。けれど、俺も妙に気まずかったから気付かない振りをして「あ、ああ…」と送り出した。
シンは、早足で場を離れる。
俺とマクギリスだけがその場に残った。

「…すまない、ガエリオ。邪魔をしたか?」
マクギリスが俺の横に並ぶ。
去り行くシンの背中を見詰めながら、俺は「いや、」と返す。

「…助かったよ……、」

あのままじゃ、
完全に、
無意識に、


「…キス…するところだった…。」



2016.04.22

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