…――やっぱりたんこぶ出来てた…。
手鏡で頭を確認しながら「はあ、」と溜息を吐いた。髪の毛で見えないけれど、触ると痛いし腫れてるのが分かる。

「頭、派手にぶつけてたが、大丈夫か?」
「大丈夫に見えます?」
気のせいじゃないよね。少し楽しそうに見えるマクギリスに、イラッときて睨み上げた。
「どれ、見せてみろ」
「やだ!触るなっ!」
嫌がる私が面白かったのか、頭をガッシリ掴まれて髪をグチャグチャにされる。せっかく真っ直ぐにして来たのに!てゆーか、さり気なくたんこぶを押さないでくれる?!本当に痛いんだから!!たんこぶって皮下血腫だからね?!内出血だからね?!それをわざと押すなんてどう言う了見なの!!
「触るな!ばか!マクギリスこっち来んな!」
「……前々から思っていたが、君は私にだけ妙に辛辣だな」
当たり前でしょう。君はどうしたってガエリオを殺すのだから。
彼を殺さないで改心するって言うなら幾らでも優しくしてあげるわよ。
「今の、孤児院時代の荒れてたシンそのままだった」
「うるさいな」
「そう、それだ。懐かしいな」
(ああ、もう、調子狂う。)
悔しいけど、懐かしいのはこっちも同じだった。

(…もう、随分と前のような気がする。)
ファリド家の養子のマクギリスと、孤児の私は、お互いに親近感のようなものを覚えて、いつも二人セットで居た。それこそ、カルタに嫉妬されるくらい一緒に居た。
あの頃は、お坊ちゃんのガエリオよりも、マクギリスと一緒に居た方が、気が楽で、とても落ち着いた。警戒も何も無く、素の自分を出せていたのは、何処と無く自分に似ていたマクギリスの前だけだったのかもしれない。

『…ねえ、何見てんの?』
水鉄砲を片手に近づいて来たマクギリス。
孤児院の敷地内では、色付きの水を水鉄砲に入れて撃ちまくるという謎のサバイバルゲームで盛り上がっていた。
私は、青い水を入れたチームガエリオ。マクギリスは、赤い水を入れたチームカルタ。

『あの鳥の巣を見てた』
木の上を指差して私は呟く。
マクギリスは敵チームだけど、撃つ気は無いのだろうか。水たっぷり入ってるし。
私の疑問を他所に、『…親鳥と雛鳥が居るね』と、隣に並んだ彼。どうやら撃つ気は無いらしい。
『うん』
暫し沈黙。
数分程、二人で鳥の親子を見上げていた。
『シン、なに考えてる?』
『さっきからずっと同じこと考えてる』
『同じことって?なに?』
鳥の親子から目を逸らし、マクギリスを見詰める。

『この銃が本物だったら、あの鳥の親子、撃ち落としてやるのに』

私の言葉に、彼は一瞬だけ目を見開いた。そして、ふわり、と、微笑む。「奇遇」と一言。

『俺も…、シンと全く同じこと考えてた。』

そう、同じだった。
なのに、
君は――…
私は――…


「シン?」
マクギリスの声に、思わず溜息が出た。
あの頃の私たちは幻だ。二人で見上げた鳥の巣。もう、きっと、あそこには無い。
あの時のゲームと同じ。私たちは、ずっと、敵同士。
私は青色。マクギリスは赤色。
お互いに、水面下で、ずっと、いつ相手を撃とう、と、窺っている。

チクリ、と、僅かに胸が痛んだ。
(私は、どうしたって、君を許せない。)

「ねえ、マクギリス」
「なんだ?」
「君は…」
静かに、彼を見上げた。
「君は、」
「……。」

「…―――いま、なに考えてる?」

先程まで、面白そうに微笑んでいたマクギリスだったが、思わぬ私の問いに目を見開く。何かを言いたげに口を開いたが、彼の口から言葉は出ない。
「………。」
結局、その言葉を聞く前にガエリオが戻って来てしまう。
「おう、待たせたなー」と呑気に言う彼に、密かに「はあ、」と溜息を吐いた。
「とにかく、コーラルのところに行こうか…」
待たせている訳だし、と続ける。「そうだな」と、遅れたくせに先に歩いていくガエリオを追うように歩き出した時だった。
グイッと、肩を掴まれて引っ張られる。
(…―――えっ、)
目の前には、無表情のマクギリス。
私の瞳を真っ直ぐ見据えて。


「…―――君と、同じことを、考えている。」


…―――ビシャッ、
生ぬるい感触。赤い液体で背中が濡れていた。
『卑怯者』
『誰も撃たないなんて言ってない』

…―――俺たちは、敵同士なんだから。




2016.04.19

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