「危ないです!!!ストラトスさん!!!!」


そんな叫び声と風を切る音が聞こえたのはほぼ同時だったと思う。
「一体何だ!」と振り返ると、般若の如き形相を浮かべたアレルヤと、何時もの如く無表情の惺が物凄い戦いを繰り広げていた。
シュンッ!とフォークが俺の直ぐ横を飛んで行った。
「なっ!!!何だよ!!!危なっ!!!」
身を守るように避けて、皆が隠れているテーブル下に避難する。
「な、何なんだよこれ…!!!」
惺は兎も角、アレルヤはまるで別人だ。しかも二人が戦っている理由も全然見当がつかない。謎だ。
そんな俺に対し、同じく避難していたフェルトがボソリと聞こえないように教えてくれた。
「彼はもう一人の人格のハレルヤです」
「ハレルヤ…?アレルヤは二重人格だったのか…」
フェルトは「はい」と頷いた。その間にも、惺とアレルヤ…もといハレルヤの死闘は続いている。部屋は勿論、移動してきたのであろう廊下もボロボロだ(わー…後でおやっさん大変だろうな…)。絶句する俺。スメラギさんがフェルトの言葉を引き継いだ。
「たまにハレルヤになる時があるの。その時はアレルヤも手出し出来ないみたいで…何時もあーやって暴れ回るのよ…」
「そうなのか…」
スメラギさんは心底困ったように告げた。
「生身で彼と互角に戦えるのが惺しかいないのよ…」
「マジかよ…」
再び二人を見る。
(壁を蹴ったり、ムーンサルトしたりしてるけど、ここって地上だよな…?)
何だよあの超人的な動きは。
「ハレルヤも、惺が簡単には殺せないと分かってるみたいでね、何時も全力で戦ってくるの。そのせいで色々大変なのよ…」
凹んだ壁を見詰めてスメラギさんは溜め息をついた。

「くたばれ惺!!!!」
「お前がな…!!!」

シュンッ!と再びフォークが飛ぶ。ガンッ!と壁に突き刺さる。
(お、おい…)
フォークを投げ捨てると、二人は接近戦へと移行する。
だんだんカンフー映画を見ている気になってきた。二人が超人的過ぎて口が開きっぱなしだ。
「いい加減、右手使えよ!!!!オラ!!!!」
「お前なんか、右手を使うまでもない」
バック転でかわす惺。
ハレルヤは「チッ」と舌打ちした。

俺は横にいた刹那に「なあ…」と話し掛ける。
「因みに、今まではどっちが勝ってたんだ?」
「17対17で3引き分けだ」
「うわ…」
ハレルヤは勿論だが、女性の惺が彼についていけてるのが驚きだ。
「いい加減降参しろ!」
「やだね!」
宙返りでかわす。すかさず放った跳び蹴りもいなされてしまう。
「…凄いな…」
流石ガンダムマイスターと言うか…。息ひとつ乱れていない。
「これで終わりだ惺!」
ハレルヤが床に落ちていたフォークを拾い上げて構える。
惺も回避の体勢に入ろうとしたその瞬間だった。
『惺、アレルヤ、喧嘩シテル!惺、アレルヤ、喧嘩シテル!』
「ハロ!!!!」
横から乱入してきたハロに、思わず叫んでしまった。
「んだよ、邪魔すんじゃねえ!!!」
ハレルヤがハロに脚を振り上げる。
「――――っ!!!!」
刹那的に惺は走り出して、ハロを庇った。
「…う、っ!!!」
肺が押し潰されるような、苦しげな声が洩れる。ハレルヤの蹴りをダイレクトに喰らった惺は、勢いのまま壁にぶつかって倒れ込む。
「惺っ!」
耐えきれなくて、テーブル下から出ようとした瞬間、刹那に腕を掴まれて制される。
「おい!刹那!惺がどうなっても良いのかよ!」
「いいから黙ってろ」
視線の先には床で苦しむ惺。彼女を追い詰めるように、一歩、一歩、と近付くハレルヤに焦りが止まらなくなる。
彼はゆっくりと惺を見下ろした。
「…こんな奴なんか庇いやがって…だからオメーは甘いんだよ」
バッ、としゃがむ。まだ苦しいのか、動けない彼女の顔を不敵な笑みで見据える。
ゆっくりと伸ばされていく彼の手。首を絞めるのかと思った刹那。

…―――ぺち、

と、可愛い音が響いた。
(…デコピン…?)
彼女は途端に不機嫌な表情を浮かべた。
ハレルヤはその彼女の表情がお気に召したのか、再びニヤリと笑う。

「今回は俺様の勝ちだな。」

惺はまだ不機嫌な表情だ。
「ま、十分暴れ回ったし、今日のところはここまでにしてやる」
惺は起き上がって睨み付けた。「次はおれが勝つからな」と告げると、ハレルヤは「ぶぁーか、次も俺様が勝つぜ」と言って黙りこんだ。
と、次の瞬間にはアレルヤに戻っていた。
「大丈夫!!?惺!ごめん、何時も…!!」
「大丈夫。慣れてる」
力なく笑う惺。腕の中から『惺、アリガトウ!惺、アリガトウ!』とハロが出て行く。

「…素直じゃないよね、ハレルヤも」
アレルヤが呟いた。
「惺に構って欲しいなら、そう言えば良いのにね」

俺は、何と無くハレルヤの気持ちが分かった気がした。
言葉で示せない分、戦う事によって彼女に示しているのだ。
勿論、ただ単にストレス発散のような目的もあるかも知れない。しかし、彼はそれら全てを踏まえて全力で向かっているのだ。
きっと、彼女も全力で受け止めてくれると分かっているから。
(俺にも、出来るだろうか…)
ハレルヤのように、兄さんのように。
全力でぶつかる事が。


(何時か、きっと…)





2012.10.26

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