「惺は可愛いと言うよりは綺麗って感じだな。」

久しぶりの穏やかな時間。惺、フェルト、ミレイナの会話に耳を傾けながらコーヒーを飲んでいた。内容は最近流行りのモデルだかアイドルだかが可愛いだの綺麗だの。そこから惺が餌食になってしまい、「惺はどっちだろう」と言う話へと発展し、最終的に俺が口を挟んでしまったのだ。
やってしまった、と思った時にはもう遅く、惺は此方を睨み付けながら「ライルは口挟むな」と一言。
「でも分かりますぅ!夏端月さんは綺麗って感じしますもん!」
ガタンとミレイナが立ち上がって熱弁。その姿に惺の眉間に皺が寄ったのを俺は見逃さなかった。一方、フェルトはジーッと此方を向きながら何か探るような視線を突き刺す。
「な、なんだよ…」
「うん、ロックオンが綺麗って言うなんて思わなかったから」
「いやいや、俺だって綺麗な女性が居たら誉めるさ。フェルトとミレイナは可愛いよ」
「違う。そう言う意味じゃなくて…、ロックオンは惺を可愛いって言うと思ったから」
思わぬ科白に目を丸くした。だってあのクールさは「可愛い」と言うよりは「綺麗」。まさに高嶺の花って感じだし、それ以外に考えられない。
「フェルト」
疑問が過る俺。思考と会話を断つかのように惺が彼女を呼んだ。「これ以上言うな」と言うことだろうか。残念ながらその無表情からは読み取れない。
「あいつとライルは違う。そこまで同じだったら怖い」
「そう、だね…」
その会話に、俺は何と無く気付いてしまった。
(兄さんは惺を可愛いって言ってたんだ…)
何処を見て可愛いって思ったんだろ。双子なのに違うんだな。ま、当たり前だけど。それ以前に、何気無く出された惺の「あいつとライルは違う」の言葉が嬉しかった。兄さんの代わりではない。俺は俺だって然り気無く言ってくれる。彼女は全部分かってやっているのだろうか。だとしたら凄い。
惺はフイッと顔を逸らした。しかしフェルトはどうしても譲れなかったのか「でも」と話す。
「私は惺は可愛いと思うよ?」
「………。」
「私達を一番に考えてくれる惺が大好き。私達を愛してくれる惺が大好き。ずっとずっと大好き」
「………。」
突然の告白めいた科白に俺とミレイナは固まったまま見詰めていた。どうなるのだろう、と。
「………。」
刹那、惺がフイッとそっぽ向く。その瞳を追った俺は、目を疑った。
あの、惺が、
(照れ、てる…)
口元に片手を当てて遠くを見詰める惺。その頬が僅かに赤みを帯びている。
俺の瞳は惺を見詰めたまま動けない。まるでそうすることを許さないように、彼女から目が離せない。
(ああ、)
これが、可愛いってことなのか。
フェルトの言った事が、やっと理解出来た。
(普段とのギャップが…)
兄さんが惺に落ちたのも頷ける。こんな彼女を、兄さんは何時も独占していたなんて。
「…可愛い、惺」
フェルトが彼女に抱き着いた。素直に言えるフェルトと兄さんが羨ましい。
俺は苦笑まじりに彼女達を見詰めていた。
(まあ、俺は兄さんとは違う)
俺は、俺なりの表現で愛を示せばいい。
「惺、」
「何だよライル」
「……何でもなーい…。」
怪訝な表情を浮かべる惺。
俺はそれを捉えると、密かに微笑んだ。




2012.11.08

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