「トリックオアトリート」

愛する女性に、無表情、尚且つ普段着で言われた俺は、どうすればいいのか。

「せめて仮装を…」
「トリックオアトリート」
「……………。」

遮られた。
どうやら相手も引く気は無いらしい。
(…はあ、)
お菓子なんて、持ってたか?
ポケットをごそごそ漁る。が、何もない。何時もなら惺用にストロベリーキャンディーを持っているのだが、生憎品切れだ。
「惺、」
苦笑いを浮かべた俺の言いたいことが分かったらしく、惺は眉間に皺を寄せた。
そして、
「悪戯、するから」
「――え?」
ぐいっ、と胸ぐらを引っ張られ、唇同士が近付いて――――…


「なーんてな」
「〜〜〜っ!!!!」

(寸止めかよ…っ!!!)
寧ろキスして欲しかった。
悔しすぎて眉間に皺が寄る。
惺はニヤリと笑った。
その笑みに、これが悪戯だったのか、と全てを理解した。
「性格が悪いぞ惺」
「なんのことだ?」
「いや、だから、俺は…」
答えられない。キスして欲しかった、なんて正直に言えるか。
惺は満足気に微笑んだ。
「かわい」
「お前だろ、それは」
「おれが可愛いなんて、ロックオンくらいしか言わないぞ」
そう呟いた彼女の肩を咄嗟に掴むと、

「トリックオアトリート?」

「……………は?」

突然の科白に驚いたらしい。
惺はきょとんと俺を見上げる。
「トリックオアトリート?」
まさか言い返されるとは思ってもみなかったのだろう。彼女は無表情で俺を見据えたまま固まった。
「お菓子は無いよな」
断定。
「悪戯、するぜ…?」

ぐいっ、と顎をさらい、
ちゅ、と惺にキスをした。


「…〜〜〜っ、!」
真っ赤になって目をそらす惺。
(こういうのが可愛いの)
にっこり、と今度は俺が意地悪な笑み。


「可愛い惺は、俺だけが知っていればいい」






2011.10.31

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