今日の予報によれば、降水確率は30%だったと言うのに。
(流石にこれは無いだろう…)
ザーザーとバケツをひっくり返したような雨。私は当然傘など持っていない。服もびちょびちょに濡れて肌に張り付く。気持ち悪い。
(何処か、雨宿り出来る所は…)
最早ここまで濡れてしまっては無意味に近いが、これ以上身体を冷やさない為にも何とか雨宿りをしたいところだ。
風邪を引いて戦場に出れなくなっては、フラッグファイターとしての名が廃る。
バシャバシャ、と水溜まりを蹴り、走り抜ける。
その瞬間、私の瞳は公園の中にあるログハウスのような小さな建物(恐らく休憩所か何か)を捉えた。
私は考える間もなく真っ先に其処に向かった。少しの間だけ、使わせて貰おう。
(…!)
誰も居ない公園の中に入り、その建物に入る。その瞬間「グラハム…?」と、今となっては聞き慣れたメゾソプラノが鼓膜を掠めた。
「惺!君も居たのか!」
私同様に、雨宿りの為に来たのだろう。その証拠に、彼女の身体もグッショリと濡れている。
惺は苦笑を洩らした。
「雨宿りだ。…降水確率30%って聞いたんだが…。まったく…」
「私もだ。しかしお陰で君に会えた」
にっこりと笑みを見せると、惺は再び苦笑した。
(とは言え、大丈夫だろうか…)
密室とまではいかないが、この二人だけの隔離された状況では…。
ちらり、と、惺を見る。
女性のガンダムマイスターとして男に負けたくないのか、彼女は何時も男物の白いワイシャツを着ている。それは今日もまた然り。
彼女のファッションを気にしている訳でもないし、ファッションセンスに口を挟むつもりも無いのだが、今日はそのファッションが仇となった。
水分を吸ったワイシャツが肌にぴったりと張り付いて、その魅力的なボディラインを強調させる。
ガンダムマイスターだから筋肉がついているのかと思っていたが、予想外に華奢なその身体。
そして、更に厄介な事に、そのワイシャツの薄い生地では、下着が透けてしまうのも当然で…。
(白か。)
って私は何を考えてるんだ。
雑念を振り払わなければ。
(…だが、)
私もいい年した男だ。好きな女性のこんなにも色っぽい姿を見せられては堪らん。
(我慢しろ。そうだ、あと少しすればきっと雨も止む)
何とか意識を離し、関係無い事を考える。

「…――っくしゅ!!!」
横からくしゃみが聞こえる。
「…大丈夫か?」
「ん。ちょっと寒い」
彼女は無表情で呟いた。そして入り口から空を見上げた。「まだ止みそうにないなぁ…」と一言。
「グラハム、ちょっとあっち向いててくれないか」
「え?」
「おれの服、凄ぇびちょびちょなんだ。ちょっと絞りたいんだけど…」
此処で脱ぐと言うのか…。なんと言うか…ある意味惺は逞しいな。
なるべく平生を装い「構わない」と告げると、惺を見ないように後ろを向いた。
「どーも」と言う返事の後に、衣擦れの音とワイシャツを絞る音が聞こえてきた。
(拷問だな、これは…)
今、自分の後ろで愛する女性が下着姿になっている。それだけで心臓がバクバク煩い。
「っくしゅ!!!」
再びくしゃみが聞こえた。
「大丈夫か?もしかして風邪を引いてしまったのではないか?」
「へーきだって」
素っ気なく返される。
「…惺は…警戒心が無さすぎる…」
「お前の何処を警戒するんだよ」
その科白の何処がいけないのか自分でもよく分からないが、それに何故かスイッチが入ってしまった。
バッと振り返り、まだ下着姿の惺の肩をガッシリと掴んだ。
「…こう言う、事だ」
それだけ告げて、唇に噛み付いた。
目を見開く惺が見える。私も目を開いたまま激しい接吻を施す。
「…グラ…ハ…!!!」
逃がしてやらない。
全部君が悪いんだ。

雨の味がする接吻。
私はゆっくりと唇を離した。
「…惺、」
濡れた瞳が私を捉える。



「…君を、抱きたい。」


腕を拘束し、片手で押さえる。
もう片方は鎖骨を這ってその豊満な胸元へ。
ガンダムマイスターと言っても、こうなってしまえば弱い。
静かに告げる。
「…拒否権は、無い。」










小さなログハウスの休憩所中に絡み付く厭らしい水音と、何とか喘ぎ声を噛み殺そうとしているのか、下唇をギュッと噛んで耐えている惺。
「…そんなに噛むな。血が出てしまう」
「…で、もぉっ…!!!」
私の指先が気になるのか、身を捩らせる。実に可愛い反応だが、それは私を煽るだけだと気付いているのだろうか。
入れていた指を一旦抜いて、その戦慄く身体を強く抱き締めた。濡れたワイシャツを脱がし、下着の上からその魅力的な双丘を優しく揉む。
雨の音が煩い。
「ん、…、ぅ…っ」
ゆっくりと顔を近付ける。濡れた唇が微かに触れ合う。その冷たくなった唇を舌でなぞる。惺は「…は、」と小さく吐息を洩らした。
(は、可愛い…っ)
彼女の両手を拘束したまま、優しく愛撫を続ける私を、生理的な涙で溺れた瞳が睨み付ける。
「…っユニオンの軍人が…、七歳も年下の、か弱い女に、無理矢理こんなことして…っ、良いのか…?」
「…構わないさ…っ、君こそ…、ガンダムマイスターなのに、ユニオンの軍人に捕まって…こんな事されて…良いのか?」
惺は再び睨み付けた。
「…お前が…っいけないんだろ…っ!!」
私は「ふ、」と笑った。
(いいさ、全部私のせいにすれば)
これから先の事も、全部私のせいにしてくれて構わない。
(だから、)
「私は止めてやるつもりはないぞ」
「グラ、ハム…っ、」
惺は涙を瞳に浮かべ、小さく囁いた。雨の音に掻き消されそうなその声を聞き取る。
「惺、これは情事ではない。」
「…、っ」
「雨宿り、だ。」
不敵に笑う。
惺の表情が真っ青になるのを見詰めた後、私は再び彼女の秘部へと指先を伸ばした。


「惺………っ、愛してる……っ、」
















「…と言う夢を見たのだ。」

「何変な夢見てんだお前は。」

「私が思うにこれは神のお告げだと思うんだ」

「神のお告げぇ?!」

「さあ!今から正夢にしようじゃないか!行くぞ惺!」

「はあ?!ふざけんなバカ!」






2012.11.25

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