どうしておれを裏切ったの。
どうしておれを騙したの。

トリガーを引いた今では、その問いの答えは、一生分からないままだ。
愛しい。でも、赦せない。
そんなジレンマを抱えて、身を焼かれるような罪と罰を背負っているんだ。
愛し抜くこともできず、赦すことも、赦されることもできずに、
ただ、苦しみながら生きるこの仕打ち。
「ああ、雪が降っている…。」
唇からは、無意識にそんな言葉が出てきた。憂鬱を孕んだその声に、ロックオン・ストラトスが隣で「お、今日初めて喋ったな」なんて場違いな科白を吐いた。
ああ。この雪は、積もるのだろうか。だとしたら全力で嫌だ。
あの純白を見ただけで、目眩と頭痛が止まらなくなる。

「…――さて、目的地は…」
ロックオン・ストラトスが空を見上げながら呟いた。今、おれ達は、スメラギさんにミッションを与えられ、都会のど真ん中を歩いている。正直、ミッションなんて一人でも十分だと思って、スメラギさんに抗議をしてみたのだが、「それじゃ意味が無いのよ」と一蹴され、任務内容をロックオン・ストラトスにだけ告げて、おれを彼の連れとして無理矢理付き添わせた。
「惺は、ただロックオンについていけばいいわ」と。意味の分からないスメラギさんの言葉を最後に、おれは渋々外に繰り出したのだ。溜め息が出そうになる。ただでさえ、雪が降っていて調子が悪いのに。
ああ、日の光が欲しい。何でこんなに寒いんだ。何でこんなに雪が降るんだ。

「…惺」
ロックオン・ストラトスが振り向いた。
「大丈夫か…?具合、悪そうだけど…」
「……。」
心配そうに、此方を見て。おれは、彼の問いに答える事はせずに、ただゆっくりと視線を逸らした。
大丈夫じゃない。
だけど、そんな風に見られたくない。気付かれたくない。
精一杯の強がり。
ポーカーフェイスで丸ごと覆い隠して。
ロックオン・ストラトスはもう一度「大丈夫か?」と問うた。おれは答えない。否、彼もきっとおれが答えない事に気付いている。
彷徨う視線。何処を見ても雪が視界に入る。
ああ。帰りたい。そう思った刹那だった。ズサァ、と言う音。一拍遅れて、ビシャア、と言う音が聞こえた。
思考を停止させる。何があったのか、とその音の出所を確認。
小さな女の子が誰かにぶつかって転んだらしい。泣くもんか、と言わんばかりの必死な表情で地面を睨み付けている。
「おー、お嬢ちゃん、大丈夫かー?」
ロックオン・ストラトスが駆け寄る。女の子は瞳にうっすらと涙を浮かべながらも、力強く頷いた。
僅かに離れた場所から、おれは呆然と見詰める。そう言えば、ビシャアと言う音も聞こえたが、あれは何だったんだ。そう思って彼女の周りを見てみれば。

…―――赤。

ばくん、と、心臓が大きく跳ねた。
分かっている。分かっているんだ。あれはトマトジュースかアセロラジュースか何かだ。血なんかじゃないって理解出来てるんだ。
本当に、分かってはいるんだ。
分かって、いるん、だ。
「…っ、!」
身体が強張る。瞳は、それしか知らないみたいに一点だけ見詰めている。カタカタと震える指先、彼女の瞳が眼帯の奥で痛みを訴えている。
「…っ、」
浅い呼吸を繰り返す。
真っ白な雪と、真っ赤な液体。
(ああ、もう―――…)

だめだ。

「…―――惺っ?!」

おれは、ただその場から逃げ出した。




2011.07.29
2013.04.22修正


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