「…―――新しいマイスター?」

スメラギさんからの予想外の科白に、おれは思わず問い返してしまった。
「ええ、そうよ。貴女以外のマイスター達には先に話しておいたわ」
「…。」
「不服?」
問い掛けて来たスメラギさんの瞳を見据える。
彼女やおれ以外のマイスター達が認めたのならば、おれが口出しする要素は無い。
それに、おれの目的はあくまでも世界の壊滅。マイスターが何人に増えようが知った事ではない。
「別に」
おれは素っ気なく返した。
会話はここで終わる。おれはトレーニングに戻ろうと腕捲りしたが、どうやらスメラギさんはおれを逃がしてはくれないらしい。
「ねえ、会ってみたいとは思わないの?」
「…皆が認めたのならば無理に会う必要無い」
「つれないわね」
スメラギさんは苦笑した。そしておれの腕を引っ張った。
「スメラギさん…?」
「強制連行〜」
目を見開いたおれをそのまま引き摺ってブリーフィングルームまで強制連行。
そこまでして会わなくても良いじゃないか、と言う反論も紡ぐ間もなく扉が開く。
「スメラギさん…!」
おれの声も虚しく、

「いってらっしゃ〜い」

扉が閉じた。


(…最悪。)
戻ったとしても、新しいマイスターに会うまで彼女はしつこそうだ。
これは腹を括るしか無い。
ゆっくりと振り向く。新しいマイスターはどんな人間なんだ。こうやって無理矢理会わせたんだから、普通の人間だったらスメラギさんを恨む。
視線を上げる。落ちてきた前髪を払って。

「………。」

おれは絶句した。
「お前、ガキじゃねーか…」
目の前に居た新しいマイスターは、どう見ても子供。おれより四、五歳離れていると思う。
「パイロット基準値はクリアしてる。そう言うお前だって女じゃないか」
「………。」
言葉が出ない。
彼は何処かおれに似ている。ティエリアとも何処か自分に似たような感覚はしていたが、それとは違った感覚。
この瞳は、確かに。
「人殺し」
思わず呟いた。
「お前は、おれと同じ瞳をしている」
勝手に言葉を紡ぐ、唇。
目を見開く彼を余所に。
おれは、その科白を吐き出した。


「…――人殺しの、瞳、だ。」


しん、と、静まり返った。
人殺しの瞳同士が見詰め合う。
先に逸らした方が、殺されてしまう、とでも言うように。
長い間お互いの瞳を見据えていた。
相手の瞳の向こうに、自分を探して。
その自分を責めるように。
瞳孔の僅かな動きまで分かってしまうのではないか、と言う程に、見詰めた。

「…お前、名前は…?」
名前を訊きたければ先ずは自分から名乗れ、と言いたかったが止めた。
おれは素直に「惺・夏端月」と告げる。
「惺、か。俺は刹那・F・セイエイ」
「へぇ、刹那…聖永…」
永遠よりも長い時間と一瞬より短い時間。
初対面だが、彼にぴったりの名前だと思った。
「良い名前だな。」
刹那は、おれの言葉に微笑を浮かべた。

「お前もな。」




2012.12.12
2012.12.16誤字修正


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