新しく入ったマイスターは、僕の予想を遥かに裏切った人物だった。
マイスターでただ一人の女性。この時点で僕は不満があった。大の男でも辛さを伴うガンダムの操縦。言うまでもなく技術は必須だ。簡単な事ではない。見るからに柔で華奢な彼女にガンダムマイスターが務まるのか。
ヴェーダは、何故彼女をガンダムマイスターに選んだのか。疑問は尽きない。
「……。」
刹那、扉の開閉音。
タイミング良く食堂にやって来たのは、今まさに思いを馳せていた惺・夏端月本人。
僕は彼女をじっと見据えた。
この間まで、徐々にではあったが表情が柔らかくなっていると思っていた。だが、先日の一件から、以前以上に冷たさを増した。常に無表情。声を発する事すら珍しい。ロックオン・ストラトスは、メリッサと接触したせいでこのようになったと踏んでいるらしいが、真相は定かではない。謎ばかりが増える。彼女は信用出来るのか。ぐるぐるぐるぐる。思考。
「……。」
(気取られたか…)
流石元兵士。僕の視線を感じ取り、じっと此方を見据える惺。眼帯を外したその瞳は、隔てる物が何も無くなったと言うのにまだ読めない。何を考えているのか、まるでそこに暗闇を飼っているかのように、奥が見えない。
「君は…」
その闇を宿した瞳は、痛いくらいに“誰かさん”に似ていた。
「“僕”に似ている。」
そう、“誰かさん”とは紛れもない僕自身。
僅かな違いこそあるが、やはり似ている。この感覚、恐らく相手も感じているだろう。
「………。」
無言の惺。肯定と受け取っても良いのだろうか。彼女の貼り付けられた無表情からは推測しかねる。
「君は、何を隠しているんだ」
問い詰めるように。
なんだ。今日の僕は少しおかしい。
「何が、君をそこまでさせるんだ」
君を見極めようと躍起になって。目を凝らしているのに全然掴めない。片鱗ですら。それは手を掠めて。
「君は、」
そう、僕は君を恐れている。僕に似た君を恐れている。僕がヴェーダを信用し、ヴェーダに従って行動しているように、彼女は、彼女のその信念の赴くままに動いている。そして、僕はそのソレスタルビーイングという型に嵌まることの無い彼女の意志の固さに酷く怯えている。何時か、その信念がヴェーダを裏切るかも知れないと。酷く。酷く。
「…今日は、随分と饒舌なんだな」
無表情で。僕の問いには答える気は無さそうだ。端から期待はしていない。頭が痛くなる。
「少し、休んだ方が良い」
上からの物言い。僕から離れたいのか、そうでないのか。わからない。彼女は読めない。
(寒気が、する。)

「…――ティエリア」

名前を呼ばれた次の瞬間、
僕の意識は、
ぶつり、と、途切れた。




2012.10.20
2014.01.24修正

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