ガンダムで降り立ったその地は、もう幾度も足を運んだ特別な場所。
コックピットから出て、雪で湿った地面を踏み締める。一歩、一歩、と、近付く度に胸が張り裂けそうになる。走馬灯のように色々な光景が甦って。おれはフラフラと進み、漸く目的のものの目の前に立ち止まった。
夏端月惺の墓の前に。
「見えるか、惺」
しっかりした声で問う。彼女がいる空まで届くよう。
シュルシュル、と左目の眼帯を外し、ゆっくりと深呼吸を繰り返した。一気に明るくなる視界。光が眩しい。ふわふわと舞う雪に光が反射している。その光景はまるで地球ではない別の世界のように幻想的で静かだった。
思えば、最初から答えは簡単だった。
なのに、未練がましく愛だの恋だのぬかして。馬鹿みたいだ。
「終わりにしようか」
名前の刻まれていない墓の前で。それ以上言葉は何も出て来なかった。不思議と悲しさは無い。ただ、虚しさと遣る瀬無さだけが胸を埋め尽くしている。
視界に入った鋭利な石を拾う。

「左様なら。」

…―――夏端月惺、と、
名も無い墓に、刻み込んだ。
遂に認めてしまった。これは悪夢ではない。現実なんだと。
ギリギリと手を握り締める。あまりの力に、手の中にある石がぷつりと皮膚を突き破る。痛みすら感じない。麻痺した心のままで、赤く血にまみれた石を見詰める。そして遠くへ放り投げた。

“惺”は死んだ。
そして、“おれ”も。

「また来るよ、惺」
認めてしまえば後は案外あっさりしている。静かにコックピットに戻り、ガンダムの操縦桿を握り締めた。

「…――ガンダムベリアル、惺・夏端月、世界をぶっ壊す」




2012.09.21
2013.07.12修正


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