翌日。メリッサは約束の時間通りにやって来た。部屋で何もやる事も無く、手持ち無沙汰に時間をもて余していた俺達三人は、ああ漸くか、と立ち上がった。と、思ったのだが、隣に居た惺は座ったまま彼を見据えてる。その右眸は光の届かない深海のよう。少し怖かった。彼女は、暫く彼を見据えていたが、何かを決心したのか、立ち上がり、無言で彼に手招きした。その行動ひとつひとつに重みがある。何故だろう、戦慄が走る。
「どうしたんですか、頭領」
彼も、その重たい雰囲気を察したらしい。僅かに低い声でその手招きに応えた。
俺とティエリアは分けも分からず惺を見詰める。どうしたのか。彼女は昨夜から様子がおかしい。元々無表情だから雰囲気が柔らかいとは言えないが、普段の冷たい雰囲気に輪を掛けて今は酷く冷たい。まるで知らない人間を見据えるかのように。
暫く沈黙が支配する。何秒、何分、ずっとそうしていただろうか。惺は小さく溜め息をついた後、とんでもない爆弾を投下した。
「…戦争なんて嘘だろ、メリッサ」
目が見開かれる。
「そん、な…っ、頭領…」
余裕そうな表情から一変。メリッサは急に慌て始めた。
そんな彼に追い討ちをかけるかのように。

「お前は、おれを殺したくて此処に呼び出した。そうだろ?」

残酷な事実を吐き出した。







薄々気付いていたんだ。だけど気付かない振りをしていた。だって彼女は女性でおれも女性だから。何時かはおれから離れる時が来てしまう、と。おれ以上に大切な男が出来たら、おれなんか、直ぐに捨てられてしまう、と。だから、彼の気持ちに気付かない振りをして、おれはおれの場所を守った。
“惺のイチバン”
おれが、ずっと、恋い焦がれていた、その場所を。
苟且の一番だとしても、誰にも渡したくなかったんだ。その一番を守り抜く為だけに躍起になって、それだけしか見ずに駆け抜けて、結局他のものを犠牲にして守り通せなかった。そして、彼女の嘘さえも見抜けなかった。純粋で残酷な願い。心の奥深くに蔓延っていて未だに抜け出せない。
「…っ!!!!」
メリッサはおれに銃口を向けた。指先が震えている。真実を言い当てられた焦りだろうか。それとも、
ロックオンとティエリアが臨戦体勢に入る。静かな空気が一変。瞬く間に戦場のようなピリピリとした空気になる。
「頭領…俺は…っ、俺は…っ!」
震える指先で懸命におれの眉間へと標準を合わせている。こんな時でも冷静に物事を捉えてしまうのはおれの悪い癖かも知れない。小さく息を吐き出す。本気で殺す覚悟すら出来てない癖に、何もかも中途半端な癖に、一丁前に誰かに責任を押し付けようとしている。
「…撃たないのか…?」
問うた。
彼は目を見開いた。
「俺は…っ!俺は…っ!」
キッ、と睨み付けられる。そして、次の瞬間、彼は物凄い勢いで逃げて行った。
(させるかよ…っ)
懐に隠していた拳銃を取り出して追い掛ける。おれの脚から逃げ切れると思ったら大間違いだ。
困惑するロックオンとティエリアを置き去りにして、ただ走った。

皮肉な事に、彼の脚はあの時の海辺へと向かっていた。
徐々に近くなる潮の匂いに、“彼女”のしかめっ面と声を思い出す。
(惺、おれは今、)
言い訳するかのように脳内に言葉が掠める。
ざくざく、と光に反射する砂を踏み締めて、メリッサは漸く観念したのか脚を止めた。
「……頭領…、俺は…貴女が憎くて仕方無いです…」
「知ってる」
随分と前から。
おれは、メリッサにとって悪者以外の何者でもない。気付いていた。
「…惺さんは確かに裏切り者です…。だけど…殺す必要なんて無かったんじゃないですか…!!」
「…………。」
「…あんなに、一緒だったのに…、」
「…………。」
「どうして…!!惺さんを…!!殺したんですか…!!!」
彼はおれを責めた。
涙を浮かべながら銃口を向けている。引き金を引くのだろうか、と、頭の中はは妙に冷静にそれを見詰めている。銃口を向ける事はあっても、向けられる事は滅多に無いから新鮮だった。
「撃たないのか?」
先程の科白をもう一度。
メリッサは身震いした。
「頭領は…っ!!!何時もそう…!!!」
吐き出すかのように。
「冷静で余裕で…っ!!!だから、惺さんを平気で殺せたんだ!!!」

…――嗚呼。

それ以上、言うな。

「俺はッ!」

「惺さんを…ッ」

「本気で、!」


愛シテイタノニ。




2012.09.17
2013.07.05修正


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