▼Work

「燐…謝りぃ」
 
「…やだ」
 
 
迎えにきた途端これだ。
 
先生から話を聞けば友達と喧嘩をしたらしい。
 
 
「だっておれわるくないもん」
 
「いんや、燐が悪い」
 
「ちがうもん!」
 
 
さっきからこの遣り取りの繰り返しだ。
 
一向に進展する気配がない。
 
 
「ゆきおくん?…やったっけ」
 
「はい…」
 
「燐に何か嫌な事言われたんやろ?
 すまんな…」
 
「…ぼくも、ごめんなさい」
 
 
俯いて呟く雪男は泣き泣き事情を話した。
 
 
「ぼくが…
 おとうさんががっこうにいくの、
 へんっていったんです」
 
 
自分の言ったことを話す雪男に律儀な子やな、と思った。
 
 
「ほら!おれわるくないもん!」
 
「なら何で雪男くんは泣いとるんや」
 
「それは……
 おれがめがねってよんだから…」
 
 
やっぱり手前も悪いんやないかって内心思いつつも燐を胸に引き寄せた。
 
 
「阿保。せやったら
 ちゃんと謝らなあかんやろ」
 
「ぅ…ご、ごめんなさぃ、
 ごめ…なさぃ…」
 
「許したってな雪男くん。
 あと、今は大人の人でも
 学校行ったりするんやで」
 
「えっ!…ほんとに?」
 
「俺は嘘言わんからな。
 お父さんに聞いてみいや」
 
 
ほれ、と指を向ければ息を切らして走ってくる神父さんの姿があった。
 
 
「おとうさん!」
 
「雪男!怪我してないか?!」
 
 
どうやら保育園の先生が連絡を回したらしい。
 
 
「ね、おとうさん。おとなのひとも
 がっこうにいくの?」
 
「学校?…んー…、行く人もいるな」
 
「ほんとにいるんだ!」
 
 
神父の格好をした父親は訳が分からないといった顔で辺りを見回す。
 
勝呂は近づいて自分を喧嘩した燐の保護者だと伝えた。
 
 
「うちの燐が
 えろうすんませんでした」
 
「あー、いやいや!
 殴り合いでもしたのかと思ったら
 ただの口喧嘩でしたか!」
 
「いや…殴り合いはちょっと……」
 
「いいんですよ、子供の喧嘩なんて。
 子供のうちにしかできないもん
 なんですから」
 
 
大口を開けて笑う神父に一礼してカーテンに隠れている燐を優しく抱き締めた。
 
 
「…燐、帰るで」
 
「…うん」
 
 
のそのそと出てきた燐は目を赤く腫らして眠たそうに勝呂に凭れた。
 
 
「…おんぶ」
 
「……今日だけやからな」
 
 
帰る途中、背中からは規則正しい寝息が聞こえた。
 
>Crying is also one of the work.
(泣くことも仕事の一つです) End


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