▼Quietly

「燐…帰るで……」
 
 
初日の学園生活の疲労はピークに達するほどだった。
 
学園のトップに立つ勝呂は全校生徒を前に長々と書かれた長文を読み、特進科のクラスメイトの女子に散々質問攻めを繰り返された。
 
 
「りゅうじ!おかえり!」
 
 
それでも必死に抱き着く燐を見れば溜まった疲れも飛んでいく。
 
 
「あ、あのな、
 ともだちいっぱいできた!」
 
 
耳元でこしょこしょと話す姿は酷く愛らしい。
 
 
「ほんまか!よかったなぁ燐」
 
「うん!えっと…れんぞーと、
 ゆきおと、しえみと、こねこまる
 …あと、まゆげっ!」
 
「まゆげ?」
 
 
何や手前は眉毛と友達になったんかって聞いたら元気よく、うん!と返事をした。
 
 
「まゆげは、まゆげだ!
 …あっ、れんぞ!ばいばい!」
 
「りんくんばいばーい!」
 
 
一番仲のいいらしい廉造くんに手を振りながら燐は楽しげに話を続けた。
 
 
「ゆきおは、なきむしなんだ!」
 
「いじめたらあかんぞ」
 
「おれしないもん!
 しえみはかわいいぞ!」
 
「どんなんや?」
 
「ん〜……ふわふわしてて、
 きらきら…ぼわん!てかんじだ!」
 
「なんやそれ…」
 
「こねこは、いいこだ!」
 
「おん、よかったなぁ」
 
「まゆげは、おこったらこわい」
 
「眉毛って人の名前か??!」
 
 
一体眉毛が何なのか気になるができれば暗くなる前に帰りたい。
 
教室に残っていた先生に頭を下げ、オレンジに染まる夕日を見ながら家路を歩く。
 
 
「今日はいっぱい遊んだんやな」
 
「あそんだ!たのしかった!」
 
「明日もみんなと仲良う遊びや」
 
「うん!
 こんどはりゅうじもあそぼーな!」
 
「せやな。みんなと遊ぼうな」
 
 
小指と小指を突き出して、夕日道で唄歌いの約束を交わした。
 
>the inside of a mutual breast
 quietly.
(お互いの胸の内にそっと) End


1万打記念TOP