怠惰陰陽師 | ナノ
洋館



扉を開けると其処にいたのは日吉と跡部であった。何とも面倒くさい組み合わせであったと紗雪は無言で扉を閉めていく。それを遮るように跡部が扉に反対の力を加える。当然ながら力の全くない彼女は、それに耐えきれるはずがなく再び扉が開けられた。妖狼によって教室内へと運び込まれ、一先ず状況整理へと移る。相変わらずのんびりとしている紗雪だが、今回ばかりは表情が硬い。



「…Xの仕業だろうな」
「絶対にそうですね。紗雪さんは化け物に遭いましたか?俺達は逃げてる時に合流したんですけど…」
「ゾンビみたいなのでしょ。祓ったけど、ここからが問題です」
「問題?何がだ?」
「面倒くさいことに厄介なのが混じってる。簡潔に言うと祓えない」



そう言うとはとが豆鉄砲を食らったがごとくの表情を浮かべ、二人は硬直した。そして、ドンドンと扉を乱暴に叩く音が聞こえてくる。紗雪は怠いと呟きながら二人の意識を自分に引き戻させ、移動を提案した。それに異論があるはずもなく、妖狼が扉を破って飛び出すと同時に脱出をする。追い掛けてくるのは幸いな事に足がトロイ化け物ばかり。紗雪は足留めとばかりに呪いを使用し、更に逃げる時間を稼いだ。これで暫くは追い付かれることはないだろう。



「くっ、祓えない紗雪さんなんて…ただのダメ人間じゃないですか!」
「言うに事欠いてそれ?ダメ人間って素晴らしいよ…何もしなくても良いんだから」
「それより祓えねえってどういう事だ!?」
「取り敢えず皆と合流してからにしよう。…探せ」



妖狼に命じ、その背に乗りながら辺りを警戒しつつも進んでいく。どうやら此処は廃校と何処かが繋がっているようだ。渡り廊下を渡りきった先は何処かの洋館のような場所。此方の方が何だか嫌な気配が満ちている。しかし、此方に人がいるならば仕方がない。それでも気になった紗雪は足を止めさせ、来た道を戻ろうとした。だが、見えない壁に阻まれたように足は進まない。手を伸ばせば、ひやりと冷たい壁らしきものに手が触れる。なるほど、誘い込まれたらしい。廃校はあくまでお出迎え。洋館がおもてなしの場所と言う訳か。紗雪は表情一つ変えないまま手持ちの式を全て出してしまう。命じるのは人探し。一人一人探していくのは危険だと判断したのだ。



「ほんと面倒くさい…血生臭い事になりそうだよ…ああああ鯛焼きが食べたい鯛焼き鯛焼き」
「あんた頭、大丈夫ですか?」
「こいつが鯛焼きしか脳にねえのは元からだろうが」
「ああ、そうでしたね。それで、どうするんです?」
「…多分、今回でXが仕掛けてくるのは最後だろうね。これを解決すれば終わり。ただ…」
「そう簡単にはいかねえってか?」
「だろうね。何より協力者に引っ掛かる。それにこの洋館…きっと誰かが作り上げたものだ。けど、Xじゃない。窓の外、見てみなよ」
「…これ、」



慎重に足を進めながら、窓の外を指差した紗雪に従うように窓を覗く。いち早く外に何がいるか気が付いた日吉が彼女を振り返る。無言で彼女は頷いた。外にいる何か。正確には漂っているものは、沢山の人の魂魄。恐らく此処で死んだ人間が成仏できずに縛られたままさ迷っているのだろう。Xの狙いが自分たちにあるにしても、これは可笑しい。殺すつもりなら、この魂魄たちのように最初から此処に閉じ込めれば良かったのだ。だが、それをしなかった。ならば他の人間が作り上げたものと考えるのが妥当。そして思い当たる節が紗雪にはあった。以前、幼馴染みの体に埋め込まれていた髪の持ち主。人間と妖の間をさ迷う者。このぶんじゃ人間とは言えないだろう。



【あ、何かいる!ヒトだ!】
「人?……侑士、何で樺地に背負われてるの?」
「ウス」
「うん、ごめん分からない」
「実は、鎌を振りましてくる男に襲われて…咄嗟にこうして逃げてきました…」
「せやから、そない呆れた目を向けんといてくれへん?そこ三人」
「だらしがない人ですね」
「全くだぜ。…鎌を持った男、か……。ハッ、洋館と言い何かのゲームみてえだな」
「ゲーム、ね…」



洋館の丁度曲がり角で忍足と樺地。そして鳳と合流する事が出来た。些か出来すぎなような気もしなくはないと紗雪は眉間に皺を刻む。このまま早々に全員が合流出来るのだろうか。短期合宿の時は時間が掛かったと言うのに。しかも未だに合流出来ていないメンバーのうち二人。向日と芥川は見鬼の才が強いのに加え、霊力が僅かながらもある。引っ掛かるのはそこだ。どうせなら力のない人間から襲ってしまえば話は早い。忍足たちが襲われたのも狙いが見鬼の才を持つものだとしたら。窓の外を漂う人魂。人間の形を保った者たちが一様に口を動かす。きけん にげて たべられる。



「……力のある人間ばかりを集めて殺してたとしたら?」
「紗雪?どないしたん?」
「跡部が何かのゲームみたいだって言ったでしょ?もしかしたら、そうかもしれない。力のある人間を閉じ込めて狩猟感覚で相手は楽しんでる。加えて捕まった人間は殺して食べてるみたい」
「たべっ…!?」
「けど、それだけじゃない。妙に魂魄の持ち主に女が多いんだ。それも若い女。何か意味があるのかな………血と浴槽…?何で…?」



魂魄を通して死ぬ間際に彼女たちが見たものを霊視していく。血と浴槽が見えたが、よく分からない。繰り返すのは危険の二文字。紗雪は更に詳しく視ようとしたところで忍足が何かを思い付いたのか。小さく声を漏らした。それにつられるように全員の視線が彼へと向く。バートリ・エルジェーベトみたいやな。そう忍足が呟いた。




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