偽物さがし | ナノ
こどくのふたり



落ち着かない空気に傷の辺りを押さえながら必死に堪えた。そんななか駆け寄ってきた小さな女の子が梦の制服の裾を引く。いきなりの事に肩が大きく震えたが、相手が幼い少女だと分かり、体から力が抜けていく。でも、どうしてこんなところに?赤いビー玉越しに覗き込むように見つめてくる少女に強張りながらも梦は笑顔を浮かべる。そうすれば微かにだが少女も微笑んだ。



「この人、何も知らない」
「え?」
「ほんまか、アンナ」
「うん」
「あの、何のお話でしょうか…」
「俺らが君を捜してた理由に関係あるんやけど、少し前に俺らの仲間が大怪我してな。その犯人が君と同し顔をしとったんや」
「わたしと、同じ…」



そう呟いて嫌な予感がした。自分自身はこの少女の言葉のお陰で疑いが晴れたのだろう。では、片割れの泡沫は?自分と瓜二つの顔をした彼女を草薙は目撃しているはずだ。間違いなく矛先は彼女に向く。泡沫がそんな事をするはずがないと断言できる。だが、その確証なんて何一つない。



「それで梦、やったか?双子やろ?」
「あ、はい…」
「いま、何処おるん?」



嫌な予感は当たった。きっと、この人達は仲間意識が強いのだろう。だから、仲間を傷付けた人間を捜している。鋭さを帯びた視線に俯き、震える両手を握り締める。そんな梦の手にアンナと呼ばれた少女の手が重ねられた。目を丸くすれば、心配そうに眉を下げた彼女と視線が混じり会う。



「だいじょうぶ」
「あ、えと…ありがとう。…それって何時の事ですか?」
「二週間前かな」
「それでしたら引っ越し当日だと思います。ずっと一緒に居ましたし、先に疲れて泡沫は寝っちゃったので外出もしてません」
「…アンナ、」
「嘘吐いてない」



アンナの言葉にそれまで刺々しく痛かった視線は穏やかなものへと変化する。どうやら取り敢えず泡沫の疑いも晴れたらしい。無意識に詰めていた息を吐き出せば、十束に労るように頭を撫でられた。バツが悪そうに頭を掻く草薙から「すまん」と言葉が吐き出される。



「ほんま、すまんかったわ。無関係やのに怖がらせてしもて」
「世の中に同じ顔した人間が三人はいるって言うからね」
「なんか紛らわしくてごめんなさい…」
「いや、ほんまに俺らが悪いんやから謝らんといて」
「これも何かの縁かもねー。取り敢えず自己紹介をしよっか。手当てしてくれたのが草薙出雲。この子は櫛名アンナ、さっき睨んでたのが八田美咲ね。あと――」



尚も紹介を続けようもする十束を遮るようにバーの扉が音を立てて開け放たれた。其処には頬を引き攣らせ、怒りで何時もよりも低い声で梦を呼ぶ仁王立ちの女。言わずもなが泡沫である。梦は小さく声を漏らし、既に涙目であった。同じ顔のはずなのに性格の差のせいか。こうも凄味が出るのかと草薙達は半ば関心状態。



「梦ー?お前は本当に学習能力がないなぁ?ん?」
「う、泡沫…今日は、違うんだよ…た、助けてもらって、」
「助けて?――その傷、誰にやられた?」
「え…緑の石のペンダントした男の人で…」
「おし、分かった。今からそいつに地獄見せてくるから動くなよ。絶対に動くなよ」
「え、あ、うん…」
「おっさん、梦に手を出すなよ」
「俺、まだおっさんやない…」



嵐のように去っていく泡沫を唖然としながら見送り、慌てて彼女の非礼を詫びた。どうやら前回の一件で彼女の中では草薙=おっさんと言う方程式が成り立っているようだ。先程のやり取りを見ていたためか、アンナの口からおっさんと言う単語が紡がれる。それを大慌てで訂正するも、罪悪感が半端なかった。



「本当にごめんなさい!泡沫にはちゃんと言い聞かしときます…!」
「っつても明らかにお前の方が立場弱そーじゃん」
「そ、それは…!」
「八田ちゃん、イジメんのは良くないで。…取り敢えずお詫びにココアでも煎れたるわ」
「なっ、イジメてませんよ!」
「でも、泡沫ちゃん?だったかな。彼女、大丈夫なのかな…相手はナイフ持ってたし…」
「俺が見に行きましょうか?」
「大丈夫だと思います。その…喧嘩馴れをしてしまったと言うか…、」
「喧嘩馴れ?普通の女の子そうやのに何でや?」



梦は自分の発言を後悔した。殆ど初対面の人間に話すわけにはいかずに曖昧に笑って適当な理由をでっち上げてしまう。しかし、それは簡単に見破られてしまった。アンナの一言によって。



「嘘、ダメ」
「え…」
「別の理由がある」
「…アンナちゃん、まさか、ストレインなの…?」
「そうだよ。にしてもストレインを知ってるなんて意外だな。…言いにくい理由だったのかな?」
「すみません…初対面の方にする話でもありませんし…あまり、関わらない方が良いかと…」
「まあ、踏み込みすぎたのは此方やろうから気にせんといてな」
「本当にすみません…」



しょんぼりと肩を落としていれば、再びバーの扉が音を立てて開けられた。スッキリとした表情の泡沫は戦利品なのか、緑の石のペンダントを片手に持っていた。ズカズカ遠慮なく中に入ってくると無言で梦の鞄を手に「ご迷惑をお掛けしましたー」と尊大な態度で言い、そのまま片割れの手を引いて歩きだす。それにつられ、席を立ちながらペコペコと頭を下げる梦。あまりにも二人は対照的すぎた。「またね」と手を振られ、困惑した表情で振り返すと慌てて泡沫の歩調に合わせた。






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