偽物さがし | ナノ
つよい子になんてなれない



前を歩いていく泡沫は憂さ晴らしをしたにも関わらず、時が経つにつれて再び不機嫌になっていく。家路に着きながらも絡んでくる人間は皆一様に緑の石を首から下げており、それもまた彼女の機嫌の悪さを助長しているのだろう。痛いぐらいに握られた手は悲鳴を上げていたが、何も言わずに歩き続けた。



「…ごめん、梦。情けないわ、自分が」
「何で?泡沫は情けなくないし、今だって、」
「あの人達に助けてもらわなければ傷だけじゃ済まなかった。油断した私が悪い。まさか二週間やそこらで見付かるなんて考えてなかった」
「仕方ないよ、前は二ヶ月掛かってた。だから油断してたのは私もだよ」
「そ、だな…」
「あのね、泡沫。さっきの人達なんだけど…」



人捜しをしてたんだって。
簡潔に十束達との会話を伝えれば、泡沫の機嫌は更に悪化した。梦は眉を下げたまま、前を向いているために表情の伺えない彼女の後ろ姿を不安そうに見つめる。ようは私達と同じ顔のやつのせいってことだろ。泡沫はそう言ってから物騒な言葉を吐き出す。何せこのような事は以前にもあり、それでひと悶着起きた事もあった。そのために我慢の限界からか、そいつを探し出すと言い出す始末である。やはり、言わない方が良かったのかもしれないと梦は思ったが、言ってしまったものは仕方がない。



「さーて、そいつを見付けたらどうしてやろうか」
「ぼ、暴力はダメだよ!相手は女の子だからね!?」
「女だろうが容赦はしませーん。と言うか、あの人達の仲間に大怪我させた奴だろ。弱いわけがない」
「…何か泡沫、十束さん達のこと知ってるみたいな言い方だね」
「梦を追いかけ回した奴等だから調べただけだ。それにストレインなら知ってる奴の方が多いよ、あれは赤の王が率いる吠舞羅。この辺一体はあの人達の縄張りだ」
「そ、そうなの…?赤の王って第三王権者だったよね…」
「ああ。面倒な話、青の王のところのセプター4との衝突が多いからあまり近付きすぎるなよ。後々バレたら面倒くさそうだ」



与えられる情報に梦は頭がエンストを起こしそうな気分だった。何処から調べてくるのかは知らないが、片割れはこう言った話をよく知っている。それに反して自分は日常生活の面に関してしか役に立つことが出来ない。私の方が情けないなぁ。そう独りごちながら横から飛び出してきた男に容赦なく拳を叩き込む泡沫を見つめていた。



「よーし、終わりっと。さて、撮りますか」
「もう…悪趣味だよ。そんな写真なんか撮って」
「勝者の証だ」



気絶した男の背中に足を乗せ、踏みつけた姿を自分で写真に納めると満足そうに微笑む泡沫。ストレスで性格が歪んでしまったのだろうかと、梦は気付かれないように溜め息を吐き出す。こんな生活を初めてから、かれこれ三年ほど。初めの頃は能力に頼りきって逃げていたが、何時しか泡沫は能力抜きで相手を捩じ伏せる事を学んだ。元々好戦的な性格が祟ったのか、あっという間に彼女は強くなっていた。それに反して梦は、とうとう逃げる術しか学ばないまま。結局は泡沫に頼りきってしまうのだ。



「…私も護身術やろっかな…力なんて使えないし」
「ばーか。必要ないよ。梦を護るのは私の仕事だからな」
「ははっ、泡沫はかっこいいや」
「だろ? ほら、帰ろう」



気が済むまで撮影したらしい泡沫の手が差しのばされる。それに躊躇うことなく、手を重ねた。






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