偽物さがし | ナノ
逃亡者の戸惑い



「気を付けて帰るんだぞ」
「うん。泡沫は気にしないで部活見学ゆっくりしてってね」
「ん。そろそろ行く時間だ」
「じゃあ、また後でね。夕飯はドリアだから」
「楽しみにしてる」



ゲートまで送ってもらい、其処からは一人で帰宅をする。にしてもゲートを通るのに端末が必要だなんて少し面倒だなと思いつつ、ポケットにしまいこむ。お気に入りの音楽を聴きながら交差点を渡り、近道を歩いていく。漸く慣れ始めた道を歩いていれば、視界に映り込む赤い炎。それは、そのまま梦に迫ってきていた。理由なんて分からない。何かした?此処に越してきてまだ数日。どう考えたって有り得ない。そんな思考がぐるぐる駆け巡るなか、鞄を肩にかけ直して走り出す。逃げることしか梦には出来ないのだから。



「ちょっと待てコラァ!」
「相手は女の子なんだからもう少し穏便にした方が…」
「うるせぇ!!」



何やら背後でいざこざを起こしているが、梦の知ったことではない。特殊な環境下に置かれたせいか、体力と足だけには自信はある。しかし、それは一般的な女性と比べての話。追い付かれないように逃げるだけで精一杯。早く、早く撒かないと…。全力疾走のおかげで喉の奥がヒリヒリと痛み、呼吸をするのも辛い。息切れを感じながらも足を止めるわけにも行かず、寂れた路地へと逃げ込む。上手くいりくんだ道で撒こうとしたが、やはり地理的に不利なため叶いそうにもない。息切れでしっかりと脳に酸素が回らなかったのか、それとも疲労か。足がもつれかけたのを必死に叱咤し、角を曲がろうとしたところで腕を掴まれた。まだ追い付かれていないはずなのに。そう顔を蒼白にさせながら相手を見れば、サングラスを掛けた金髪の男だった。



「あ、草薙さん!」
「何や、追いかけ回すんならさっさと捕まぇや」
「すんません!」



追い掛けてきた二人組はどう考えたって、この草薙と言う男に頭が上がらないようだ。つまるところ仲間と言ったところで無意識のうちに逃げようと足を退いたが、やんわりとだけど強い力でそれは阻まれた。掴まれた腕を振りほどこうにも実行に移すよりも前に不可能だと悟らされる。



「堪忍な、お嬢さん。訊きたいことがあるんや」
「訊きたい、こと…?」
「せや。だから、ちと来てくれへんか?」



尋ねるようだけども、有無を言わせない響き。体がすくむのを感じながら、恐怖から相手の視線から逃げるように下を向く。怖い、怖いと頭の中で声が反芻する。泡沫、と双子の片割れの姿が脳裏を掠めていく。「ほな、行こか」と腕が引かれ、目を強く瞑った。



「ちょっと、そこのおっさん。うちの梦に何やってんだ」
「お、おっさん…?」
「泡沫…!」
「ったく、心配してみればこれだ。知らない奴に着いていくなとあれほど…!」



不機嫌きわまりないとばかりに言い放ち、泡沫自身を掴まえようとした梦を追ってきた二人組をあっという間に片付けてしまう。相当機嫌が悪いらしく、舌打ちを漏らすと梦から草薙の手を放させ、そのまま抱え込むように抱き締めた。



「帰るぞ、梦」
「ちょ、待ち――」



制止の声を掛けるも、梦達の姿は空間に溶けるように消えていく。気絶した二人組とともに取り残された草薙は「ストレインか…」と呟き、端末を取り出した。一方、双子は力を使って既に家に戻っており、梦の頭に容赦ない鉄拳が襲い掛かる。仁王立ちをする泡沫にひたすら謝るが、彼女の機嫌は悪化していく一方で。涙目になりながら梦は正座をしていた。



「このっ馬鹿!!」
「ご、ごめん…」
「何かあったら直ぐに連絡しろと言ってあっただろ。…無事で良かった」
「本当にごめんなさい…」
「もう良いから。ところで奴等は例の集団だったのか?」
「…たぶん違うと思う。何か、訊きたかったみたい…」
「ふぅん…違うなら問題ないか。取り敢えず二度と会わないようにしとけよ」
「うん…」



頷き、泡沫の背中へと腕を回す。昔、まだ母親の胎内に共にいたためか。こうして彼女の心音を聞いていると安心する。まるで小さな子供みたいだと梦は小さく微笑んだ。






×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -