偽物さがし | ナノ
無知なままで



「誰にも話してはいけないよ? もし話してしまったら――」



ひくりと息を呑むと同時に目が覚めた。眠っている間に流れていたらしい冷や汗に体が、背筋が冷たい。夢…と小さく呟くと自分の腰にまとわりつく腕の持ち主を視認する。自分と同じ顔をした少女は穏やかな寝息を立てながら眠っており、ベッドの上に広がる鮮やかな蜂蜜色の髪はカーテンの隙間から差し込む陽の光を反射してキラキラと輝いていた。その髪に指を絡め、鋤くと僅かに身動ぐ。



「…おはよ、泡沫」
「ん…梦、おはよう。いま何時だ…?」
「七時前。学校だから起きないと」
「まだ平気だろ…」
「……朝ごはん用意してくるね」
「おー」



ベッドにへばり着く自らの双子である泡沫を置いて洗面所に行き、身支度を整えてから朝食を作り始めた。まだ時間はあるので泡沫が好きなパンケーキをゆっくり焼きながらメープルシロップを戸棚から取り出す。これがないと泡沫は拗ねるのだと梦は微かに苦笑を浮かべながら、サラダのレタスを水にさらした。揃いの食器の上に盛り付け、未だに起きてこない泡沫を起こしに行く。



「起きて、泡沫。遅刻しちゃう」
「う、うむ……ん……」
「泡沫ってば、」
「問題ない」
「大有りだよ。転校してから数日なのに…」



何時まで経っても起きない泡沫にシビレを切らし、無理やり掛け布団を剥ぎ取れば抗議の声とともに起き上がった。そんな彼女に洗顔しに行くように言い、タオルを渡すとベッドメイキングをしてから寝室を後にする。一足早くリビングに来たらしい泡沫は紅茶を煎れており、座るように促されて大人しく席に腰を降ろした。



「ほら」
「ありがとう」
「やっぱり美味しいな、梦のパンケーキ」
「褒めてくれるのは嬉しいけど、ちゃんと座って。行儀悪いよ」
「はーい。今日、ちょっとだけ部活の見学してくるから気を付けて帰るんだぞ。知らない人間には着いていくな」
「子供じゃないんだから。でも、うん。気を付けるよ」



そう言えば、満足そうに頷いて残りのパンケーキを咀嚼していく。サラダを避けて残そうとするのを何とか食べさせてから制服に着替えて髪を結ってしまう。面倒くさそうな泡沫から櫛を受け取り、自分と同じ髪型にして髪飾りだけ違うものを選ぶ。髪飾りも常に揃いだが、見分けがつかないとクラスメイトに言われて変えたのだ。それまで言われたことのない言葉に今も戸惑う。確かに見分けがつかないぐらいに似ている。なのに、どうして今までそれを指摘されなかったのか。



「何でだろ……」
「何が?」
「見分けつかないって言われたことなかったから」
「いや、何度かあるぞ。忘れてるのか?」
「そう、だったけ……」



泡沫は嘘を吐かない。妙な突っ掛かりを覚えながらも無理やり自分が忘れているだけだと言い聞かせる。色違いのストラップがぶら下がる鞄を手に家を出た。






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