偽物さがし | ナノ
凍てつく明星



赤も青も満身創痍。彼等は確実に梦に遊ばれている自覚があった。何せことあるごとに黒歴史に触れられ、大した攻撃をされるでもなく笑い者にされているのだから。未だに遭遇をしていない泡沫と八田は腹立たしげに壁を殴っている状況。そして、ついに両クランで手を組んだのである。大きな理由として一つのクランでは、梦をどうにも出来ないから。王が出れば、また話が違ってくるのだろうが、それもまた問題となる。故に共闘。そして其処には久坂と千夜の姿。その二人に連れられるように河神紬がいた。無論、赤と青との面識はない。



「……其処の彼はどちら様かしら?」
「あ、つむちゃん自己紹介ターイム!」
「その呼び方やめて……。緑の王のクランズマンの河神紬。現在逃走中の梦とはガキの頃からの付き合いかなー。そんで何で俺、呼ばれたの?」
「お前、先代の頃からのクランズマンだろ。どうにかしてこいよ、あのバカ」
「えー。あれって気が済むまで収まらないでしょ。先代くらいしか無理無理」
「ちょっと待てよ!緑って…!」
「あー、其処の双子とか追いかけ回してるのうちのクランズマンじゃないから。無実無実」
「…三年間も追いかけ回されて、はい、そうですかで引き下がると思ってるのか?」



バンっと机が叩かれる。泡沫からの視線を逸らすことなく河神は深く溜め息を吐き出した。あれは、正確には元クランズマンの残党なのだ。利用され、操られているだけの。此方でどうにかしようとしても先代の頃のクランズマンが殆ど残っていない緑のクランでは最早無関係と判じている者も多い。だからこそ収集がつけられないのだ。漸くと一年前にその大半を黄金とともに片付けたものの未だに残っているのも確かなこと。故に河神は何も言い返そうとはしなかった。それが卑怯だと知りながら。そんな折りに苛立ったように伏見が舌打ちをした。



「そんな事は今はどうでもいいだろ。何なんだよ、あれ。人格なんってもんは丸っきり違う上に歳まで違う。理由ぐらいわかってんだろ」
「えー、歳はどうなんだろ。小悪魔な黒梦ちゃんは分かるけど。そんなことより天使の白梦ちゃんのために買った洋服どうしよう」
「知らねぇ」
「あ、俺も驚いたそれ。まんま昔の梦だったけど、中身が黒だったから俺は近付くの無理。だって、あれの趣味って悪趣味だしさー。うん、無理。白梦なら思う存分構い倒せるからカムバック」
「さっきから黒白うるせぇんだよ!お前らが分かるからって勝手に会話広げんなっつーの!」
「まあまあ。落ち着きなよ、八田。取り敢えず今の彼女は黒梦ちゃんなんだよね?その理由は分かるんでしょ?」
「………黒梦は彼奴の真相心理の闇そのものだ。それを元に作り出した人格。だから、くそのように性格が悪い。見付けて捕まえたら…ぶっ殺す」
「作り出した?それは人工的にか何かか?」



弁財の問いに事態を飲み込めていた三人は動きを止めた。その事に触れるなとばかりのオーラが久坂から流される。それに距離を取った河神は何事もなかったように席を動かし、エリックの隣へと収まった。一方、急に隣に座られた方は驚いている始末だ。千夜は諦めたように仮面をとり、久坂の肩を叩いた。もう諦めろとその顔が物語る。それを受けて久坂は不機嫌そうに舌を打つ。



「どうせ御前から一任されてるんだし、良いんじゃないの?うちの黒梦ちゃんが起こした事だし、この人達も知る権利あるでしょ」
「だったら、テメェが説明しろよ。あれは地獄耳だ。知られたとなれば、問答無用で攻撃してくんぞ。今は遊んでるだけだ」
「あー…任せた、つむちゃん!つむちゃんにしか出来ないよ!つむちゃんと黒梦ちゃんは仲良し!大丈夫!」
「え、待って?ぶっちゃけ黒梦を怒らせて俺ってば殺されかけたことあるんだけど!?仲良し違う!まだ死にたくない!あれの本気はマジで死ぬ!先代が助けてくんなきゃ今頃土のなか!そんぐらいのレベル!」
「…ごちゃごちゃうるせぇ。早くしろ」
「ええ、そうして下さい。時間の無駄です」



今まで静観していた王権者二人に言われた河神は顔を青くさせながら座り込んだ。ねえ、俺の身の保障をしてくれるんだよね黄金ってば。ああ、可能な限りするが期待はすんな。そんな会話を繰り広げた後に河神は観念したように口を開いた。黒梦は黄金がとある実験によって生み出した人格なのだと。それを耳にした誰もが息を呑んだ。



「まあ正確にはウサギであった梦の母親が勝手にやった事だけど。石盤に人格を持たせようとした結果でしょ、あれ」
「余計な事まで言うな」
「石盤に人格を持たせるやなんて…そもそも何でそないなこと……」
「もう故人だから知らないよ。しっかし、何でまたあんな歳なんだろ」
「…四年前から黒の方は成長してねーからだろ。石盤の影響かもしれねぇけど、取り敢えずどうでもいい。チビならまだマシだ。まだあれは食い物で釣れる歳のうえに…おい、千夜。あれは何割だった?」
「え?あー、うーん…逃げ出す前だと7割だったからそこそこ?でも、本調子じゃないからまだ平気だと思う」
「7割って平気じゃないから、それ。そもそも、そんなの計ったから出てきちゃったんじゃないの」
「おや、また身内同士の会話で着いていけそうにもありませんね。いい加減に彼女の正体を明かしてくれても良いのでは?何故、彼女は黄金でそのような人格を持つに至ったのか。石盤の影響とやらも知りたいですね」
「あれを捕まえるのには関係ねーよ。聞きたきゃ御前に直訴でもしろ」



頑なに口を閉ざす黄金の二人。河神もまたその話だけはするつもりもないらしく明後日の方向を向き続けている。不意に淡島は以前、梦が言っていた言葉を思い出した。私は御前の悲願を叶えるために動くだけ。それが私の悲願を叶えるのも同義だから。そうやって儚く微笑んでいた。今の黒が白の真相心理の闇であるならば、それは変わらないのではないだろうか。だが、現に彼女は御柱タワーを爆破している。彼女の真意は何処にある。淡島は其処まで考えて日高の呼び掛けに思考を中断した。漸くと周りが動いている事に気が付いた淡島は慌てて椅子から立ち上がった。



***



暇だとばかりに木からぶら下がっていた梦は体勢を元に戻した。ぱったりと止んだ襲撃。まあ、作戦会議とやらでもしているのだろう。どうでも良いけど。そう吐き出して木の上から飛び降りる。その下では、何人もの人間が倒れていた。赤と青からの襲撃は止んだ。だか、その代わりとばかりに自分を襲ってきたストレイン達。理由は明白であった。だから、容赦なく攻撃をしてやった。殺さないだけマシだろう。そう考えながらも彼女の機嫌は段々と悪くなっていく。近付いてくる複数の足音。うざいうざいうざいうざいうざいうざいうざい。壊れたラジオみたいに呟いて純粋な力の塊を叩き付けてやる。それから程無くして一羽の烏が梦の肩へと止まった。何事かを伝えるように鳴く声に彼女の機嫌は最低ラインを通過。足元に転がるストレインに蹴りを入れた後に歩き出す。だが、その足は直ぐに新たなストレインによって強制的に止められる。彼女から表情が消えた。



「あー、もう目障り。何なの?僕のことを放っておけよ、裏切り者。ああ、こんな話したって君には分かんないよね?分かるはずもない。バカな君に選択肢を与えてあげようか。今すぐ消えるか死ぬほどの苦しみを味わうか。さあ、選んでみなよ?僕は、時間の無駄が嫌いなんだ。十秒で決めてよ」



まるで用意してあった台本を読むかのように感情の籠らない声で一気に捲し立てる。それに怯んだ相手なんて目に入らないとばかりに梦の足元から地面が凍結を始める。そして氷の刃が襲い掛かったが、それは第三者によって阻まれた。剣呑に目を細め、相手を見てから彼女は一定の距離を空けた。



「えーっと?梦、だよね…?何か幼いけど」
「な、なんか何時もと違う梦だから怖いのだ…」
「これは貴様がやったのか?」
「だったら何?白銀のクランと関わるつもりないんだけど。分が悪いし不変だなんて厄介な力を誰が相手するか」
「わぁ…何か凄い言われ様だなぁ。今日の鎮目町が騒がしいのは君の仕業だよね?何でこんな事をしてるの?」
「人探ししてるの。だから僕の邪魔しないでよ」
「人探し?誰を探してるのかな?」
「関係ないよ、ねっ!」



宙で身を捩る水で形作られた龍が三人を襲う。そして同時に変わりゆく周りの風景。それを目にした伊佐那は困ったように頬を掻いた。これはネコと同じ能力。だが、確実にそれよりも上をいく認識操作の能力。溜め息を吐きながらも王の力で空間を崩したが、そこに既に梦の姿は見付けられない。どうやら怒らせてしまったようだと判断した彼は、どうしようかと呟いた。



「梦ってば、どうしたのかな…ワガハイたちのことが嫌いになった?」
「いや、どう考えても可笑しな事が多すぎる。青も赤も動いているうえに一体あやつの変わり様は…」
「んー、取り敢えず探してみよっか?いざとなったら中尉に聞いてみれば良いし」
「随分と楽観的な考えだな。この者達のようになるかもしれんと言うのに」
「たぶん大丈夫だよ。梦は、そんなことしないって僕の勘が言ってるから」



呆れたように夜刀神は大きく息を吐き出した。ネコは伊佐那の言葉に従うように梦を探すのだー!と叫んでいる。これは、もう必然的に追うことになりそうだと彼は諦めたように判断を下す。無論、今の彼女を野放しにするつもりもなかったのだが。





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