偽物さがし | ナノ
黒い海と揺れる三日月



見付からない見付からない。この町にいるはずなのに何処に隠れている?酷く苛立った様子の梦は頭を掻きむしった。ストレインから聞き出した、この倉庫にもいなかった。見付けないとならない。そして報復をしなければならない相手が見付からない。それなのに余計なのが寄ってくる。その上、最も腹立たしい話までされてしまった。故に彼女の機嫌は最低だった。パチリと電撃のようなものが周りで弾ける。まるで彼女の苛立ちを表現するかのように。



「二階堂の奴、何処に隠れたんだよ。王様を殺したくせに…そのうえ僕の記憶まで弄ったクソ野郎。彼奴のせいで、こんな事になってるのに暢気に傍観かよ。相変わらず悪趣味だよねぇ、全く。…其処で僕の話を盗み聞きしてる君達もさぁ」
「あれ、見付かっちゃってた?」
「吠舞羅の十束多々良にセプター4の榎本竜哉、ね。へえ…何?ついに赤と青で仲良しお手々繋いで捕まえましょうかって?」
「別にそう言うわけではないですけど…一時的な共闘です」
「ふぅん、それで?二人で私の気を引いているうちに周りを包囲して捕まえようって考えなんて甘いよ?お喋りな紬がいるのに何も聞いてないんだ」



ついっと梦の視線が誰にもいない場所へと向けられる。河神は、びくりと胸元を押さえた。バレてらっしゃるー!そう泣きそうな顔で隣に潜む藤島を見れば、同情するかのように肩を叩かれる。同情するなら身の安全を確保してほしい。そんな河神の心情を知ってか知らずか、彼女はポケットから飴玉を二つ取り出した。それを掌の上で転がしながら視線を下へと向ける。梦の口許が弧を描く。反対に微かに瞳が揺らぎ、一瞬だけ瞳の色が常磐へと変わる。



「クランを敵に回すと面倒くさいから大人しくしてたけどさぁ、いい加減にしてよね。彼奴らもみんなみんなウザいんだよ。僕の邪魔ばっか…」



パチリと掌の飴玉がはぜる。緑のクラン特有の改変によって爆弾へと変わったそれが爆発を引き起こす。それを防ぐように同じく改変によって爆発を相殺した河神が両者の間に割って入っていた。片や満面の笑顔で片や冷や汗が止まらない状況。梦は再びポケットから大量の飴玉を取り出す。これを一度に爆発させれば、彼女とて無事ではすまない。それを分かっているはずなのに笑みが崩れるわけもなく、周りを囲まれても余裕そうな表情が浮かべられる。



「これは、またぞろぞろと。取り敢えず…よっと!」
「ふぎゃっ!」
「あははっ、紬の顔面ってば踏み台に丁度良かったわー」
「待てコラ!」



制止の声も聞こえないとばかりに窓を破り、外へと出た。だが、其処にいるのは周防と宗像などの能力の強い異能者の姿。その中に泡沫の姿を見付けた梦は浮かべていた笑みを完全に消し去る。千夜と久坂に緊張が走った。普段は人をイラつかせるような笑顔を浮かべている彼女が表情を消す時は碌なことがない。やはり、連れて来なければ良かったか。そう思ったものの本人が来るつもりだったのに加え、戦力が多いに越したことはないと思ったのだ。そう思った矢先に場違いなほどの暢気な声が、その場に響いた。



「あ、やっと見付けた。それにしても凄い状況だね」
「白銀の王…何でこんな所に…」
「梦の様子が可笑しかったから探してたんだけど…やっぱり取り込み中だったかな?」
「取り込み中も何もないだろ、伊佐那。見てわかるだろ」



空気を読めとばかりの泡沫の言葉に伊佐那は苦笑を浮かべてから梦へと視線を向けた。ゆらゆらと瞳が揺れている。時折、覗く常磐色。それが何かを訴えかけているようだと彼は思った。泣いている、そう感じたところで見え隠れしていた常磐が消失する。消える直前、彼女の唇が微かに動いていた。にげて。確かに、そう動いたように見えた。だが、そんな事を忘れさせるかのように梦は言葉を吐き出す。



「王が三人とか、どんだけ。しかも、そんな奴を人の視界にまで入れやがって…だから王もクランも嫌い大嫌い。そこだけはヘドが出るけど彼奴と同意できる」
「あ?何わけがわかんねぇこと言ってやがる」
「べっつに。分かられてもウザいし。…そろそろさぁ、教えてやれば良いじゃん。久坂も八代も知ってるくせに、だーんまりって相変わらず黄金ってば汚いよね?それとも自分達の名に傷がつくからとか?」
「…うわぁ、本当に黒梦ちゃんってば感じが悪い子だよね!」



千夜が力を駆使すれば、一気に梦の体が地面へと傾く。戦闘にではなく、捕縛に特化した能力。そこへ畳み掛けるように宗像が彼女の体を地面へと動けないように拘束する。青の力は制御を司るもの。それを持ってすれば、危険な力の使用を妨げることも可能である。だが、それも長く持つはずもないために梦の腕へと異能抑制具を付けようとした瞬間、彼女は笑みを浮かべた。



「…何が可笑しいのです?」
「何のために下らないお喋りしたと思ってるのさ。時間が欲しかったんだよ。さあ、出るよ」
「っ、宗像!早くそいつの力を抑えろ!」
「ふはっ、もう遅い」



真っ黒な焔が揺らめく。それに触れた場所が一瞬にして消失する。地面に押し付けられたせいで痛みを感じる箇所を擦りながら立ち上がった彼女の頭上に浮かぶ黒いダモクレスの剣。



「あーあ…能力を使わない私より僕の方が使い方が下手とか納得いかなーい。そのせいで時間かかったし」
「…君は新たな王様なの?」
「さあ?答えが欲しければ、自分で考えなよ。まあ、無事でいられればの話だけど」



にっこり微笑むと同時にその場は黒の焔に包まれた。何もかもを無へと返す闇色の焔に。





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