偽物さがし | ナノ
ながれぼしきえた



上空に出現した黒いダモクレスの剣。梦は痛みに霞む視界の中でそれを捉えていた。だが、凄まじい勢いで襲い来る頭痛に直ぐに視界から剣は消えていく。きつく目を瞑り、痛みに堪える。けれど、早くダモクレスの剣を消さなければならない。その想いで彼女は、引っ掻き回されているような感覚の頭で何とか意識を集中させた。力の暴走によるダモクレスの剣の出現。それを何とか鎮めると同時に漸くと頭痛も収まり始めた。だけど、まだ気を緩めるわけにはいかない。だって、何時また干渉をされるか分からないから。体を支えてくれていた淡島にお礼の言葉を述べながら梦は自らの体を起こした。



「ごめんなさい。もう大丈夫ですから…」
「大丈夫って貴女…尋常じゃない苦しみ方をしていたのよ!?それに今のはっ、」
「黄金で検査をしてますから大丈夫です。原因もはっきりしてますから。……そこのストレインも千夜さんの指示に従いますので身柄の方はお願いしますね」



酷い痛みの余韻が残っているのか。梦は未だに顔を歪め、息苦しさを少しでも押さえるために胸元を押さえていた。淡島に対して申し訳なさそうに眉を下げながら頭を下げ、その場から立ち去ろうとする。だが、それを阻むように彼女の腕を八田が掴んだ。その力の強さに微かに表情を痛みに歪めながらも真っ直ぐとその視線を受け止める。



「……離して下さい」
「っざけんな!今の何だよ!あれは、ダモクレスの剣だろ!?」
「御前からの御許しがない限り、私には説明することは出来ません」
「お前、クランズマンでも何でもねぇんだろ!だったら御前だの何だのを言い訳にすんな!」
「っ、関係ない!クランズマンでなくても私は、わたしはっ…!」



唐突に声を荒げた梦に虚を疲れたのか。八田の手から力が抜けていく。それを見逃さずに手を振り払った彼女は怒りを含んだ常磐色の目を細め、それから悲しそうに地面へと視線を向けた。次の瞬間には、梦の姿は溶けるようにその場から消えていく。瞬間移動の能力を駆使した彼女の行方を追うことが出来る者は、この場には誰もいなかった。



「怒らせた挙げ句に逃がすとか…八田、使えねえ」
「はぁ!?瞬間移動のストレインとか知らなかったんだから仕方ねぇだろ!つーか反則だろ、あれ!」
「…はぁ、一先ず捕縛したストレインを護送車に乗せなさい。撤収よ」
「待てよ!そいつに俺らも用があんだよ!」
「黄金から身柄を預けられたのは我々セプター4よ。引きなさい。…と言っても無駄かしら。御前から教えられた彼女についての情報を今後伝えるってことで、どうかしら」



淡島の言葉に誰も何も言葉を発しようとはしなかった。それを肯定と受け取った彼女は、身を揺る返して護送車へと足を向ける。弁財が淡島に、今のような取引をしても良かったのかと問い掛けたのは言うまでもない。実質的に黄金の庇護下に置かれている國常路梦について謎が多すぎる。その彼女についての情報を共有することにデメリットはないと淡島は踏んだのだ。何より出現した黒いダモクレスの剣の方が気にかかった。國常路梦は新たな王なのか。巡り回る疑問を抱えていれば、突如として背後から爆発音がした。慌てて振り返れば、顔を隠した異能者の姿。サーベルを引き抜こうとしたところで空から降ってくる人影。その人物は久坂であり、新たに出現したストレインを踏み潰して額から流れる血を拭っている。あまりの急展開に二つのクランが硬直するなか、何でもないとばかりにストレインを蹴り飛ばしてから、その襟首を掴んだ。



「ああ、悪ィ。邪魔したな」
「そ、そのストレインは…」
「あー、何っつーか捕物で逃げてきた奴。梦の野郎がぶっ倒れやがったから捕まえるのも面倒くせぇし帰ったらシバいてやらねぇと気がすまねーな、これ」
「捕物ですか…?」
「つか、彼奴お前らのとこに預けたって聞いてたんだけど。何処に行きやがった」
「八田が怒らせてどっか行ったぜ」
「あ、お前は確か千歳っつたか?と言うか、なに面倒くせぇことしてくれてんだよ、チビ。彼奴が消えると面倒くせぇし、この非常時に何してやがんだよ、あの馬鹿。ぜってぇ泣かす」



苛立たしげに頭を掻くと掴んでいたストレインの襟首から手を離し、倒れたそれを踏み始めた。踏みながらタンマツを取りだし、画面をタップしていく。今の久坂の優先事項と言えば、消えた梦の行方だ。逃げたとすれば、御柱タワーかと思ったが、どうやら其処へは戻っていないとの報告が帰ってくる。位置を捕捉しようにもGPSが機能していないならば意味がない。力の暴走は耳にしていたためにそれでタンマツが余波を受けて壊れてしまったのだろう。そこまで思考を巡らせ、久坂は大きく舌を打った。



「あー、どーすっかな。取り敢えず責任もって見付けてこいよ、チビ」
「ああ!?何で俺なんだよ!」
「テメェのせいだからだろうが。見ての通り俺は忙しい。彼奴なら放っておいても問題ねぇけど、今は問題大有りなんだよ。分かったなら行け今すぐ行け」
「我々も捜しましょうか?」
「ああ、悪いけど頼んだわ」
「俺は引き受けねぇからな!」
「そんならテメェのとこの王様に直接、文句を言ってやるよ。どっかの誰かさんのせいで黄金が多大な迷惑を被ったってな」



意地悪げに笑いながら言えば、八田は言葉を詰まらせた。草薙からの言葉を忘れたわけではない。黄金からの圧力は出来れば回避したいとの物言いだった。相手に聞こえるように悪態を吐きながら、スケボーを走らせるしかなかった。





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