偽物さがし | ナノ
満月を待てずに枯れた花



七釜戸まで戻ってきて直ぐに梦は、またもやストレインによる凶悪事件の発生をウサギから耳にした。それにより青のクランと赤のクランの両名に怪我人が出たとのこと。自分が鎮目町にいる時には動きも何もなかったにも関わらず、それが起きたことに彼女は悔しそうに拳を握り締めた。犯人のストレインは未だに逃走中。それを捉えるために両クランが動いている。下手をすれば、衝突も有り得てしまう。それを回避するには、それより先に第三者がストレインを拘束すること。今あの二つのクラン同士で争われては困ることになる。



「御前は、この事について何か言ってる?」
「いえ、何も」
「そっか…。じゃあ、私が動いても大丈夫なのかな。赤と青が衝突する前にストレインを捕まえられればどうにか…」
「何アホなこと言ってやがる。お前まで動いたら面倒くせぇだろ」
「海斗くん!でもっ、このままだと!黄金で自由に動けるのは私だけだし、それにっ」
「アホ馬鹿間抜け単純お人好し。勝手にやらせときゃ良いだろ。その方が炙り出しやすくなる」



久坂の言葉に梦は言葉を詰まらせた。確かに彼の言う通りだ。それでもクラン同士の衝突を見たくはなかった。これは自分のエゴだ。同じことを繰り返したくないから、勝手に止めようとしているだけ。それを理解していても梦は大人しく事の成り行きを見守ることは出来そうにもなかった。お願い、そう瞳を揺らしながら言葉を吐き出す。目を細め、自分を睨む久坂から目を逸らすことなく彼女は同じ言葉を繰り返した。やがて久坂は大きく溜め息を吐き出し、梦の額を思い切り指弾してやる。容赦ないそれに額を押さえながら、後ずさった。



「俺は動けねぇから、誰か連れていけ。千夜の馬鹿辺りなら暇だろ」
「ありがとう!」
「ただし、あんまり馬鹿な事はすんなよ」
「うん、気を付ける」



笑顔を浮かべながら大きく頷くと千夜に電話を掛けつつ、梦は犯人の顔を確認してから御柱タワーを後にして行く。千夜は、どうやら鎮目町周辺にいるようで其処で落ち合うことになり、タンマツをしまうと直ぐに鎮目町へと足を向けた。瞬間移動の力を駆使し、なるべく人気のない所に出ると千夜の姿を求めて街中へと走る。大体の位置は教えられていたので、そちらへと走っていた梦は足を止めることとなった。彼女の目の前にいるのは赤のクランの出羽と千歳の姿。互いに互いの姿を認識すると同時に梦はその場から逃げ出した。どうやら千夜と合流出来そうにもない。丁度掛かってきた電話で謝りながら大通りへと飛び出した。このまま一人でストレインを追うしかない。そう覚悟を決めたところで走りながら能力の使用を開始する。あまり長くは使えないから直ぐに見付けなくては。頭の片隅に、ストレインの姿が映し出される。何処の辺りを逃走しているのか検討がついたところで梦にとっては最悪な結末を迎えた。曲がった角の先にはセプター4の秋山と弁財がいたのだ。完全に挟まれる形となった彼女は諦めたように脱力し、肩で息をしていた。



「…………ううっ…海斗くんに殺される……」
「おっしゃ!追い付い……青服!!」
「吠舞羅か…!」



何だか知らないが、自分から意識が外れているようだ。両者が睨み合っている間にセプター4の横を通り過ぎて再び走り出す。この時ばかりは仲が悪くて良かったと梦は心底思った。このまま東に進めば、ストレインとかち合うことになる。そんなことに思考を巡らしていれば、段々とクランの多くの人間に認識をされてしまっていた。そうなれば、追われるのは必然であったが、今はそれを気にしている場合ではない。走っていると不意に頭上に影が差した。



「梦ちゃん、やっと見付けた!」
「千夜さん!」
「本当に心配したんだから、もうっ」



ごめんなさいと言葉を口に出そうとした梦だったが、それが口にされることはなかった。目の前に例のストレインが現れたがために。ウサギの装束をした千夜に視線を向ければ、小さく頷きが返される。それを見てから梦は前を向き、意識をストレインと集中させた。刹那、ストレインの体が地面へと沈みこむ。見えない力によって地に縫い付けられたそれを千夜が手早く捕縛してしまう。それから背後を振り返った。



「このストレインの身柄は黄金が預かりうける。あ、ついでにうちの可愛い妹分を追い掛け回すのやめてよねー」
「はあ!?何だって黄金が出てきやがる!」
「大人の事情だよ、おちびさん」



ウサギらしからぬ口調で千夜は、八田をからかうように言葉を吐き出す。それに気分を害したらしい彼に千夜は相変わらずマイペースに、これどうやって持って帰ろうと呟きを漏らしていた。ツンツンとストレインの頭をつついていれば、やって来たセプター4の車。其処から降りてきた淡島を見て千夜は名案だとばかりに声を張り上げた。



「世理ちゃーん、その車で七釜戸まで送ってよー!」
「貴女…はぁ、どうして黄金まで?」
「えへっ、大人の事情ってやつ?ねえねえ、送ってよ。これ持ち帰らないとならないしさー」
「だから、そいつ置いて行けよ!」
「煩いよ、おちびさん。あまり喚き立てると迷惑被るのそっちの王でしょ?」



その言葉に黙りこんだものの、視線からは敵意が揺らぐことはない。セプター4からも警戒ともとれる視線を浴びながらも千夜が動じずにいると唐突に梦の肢体が地面へと崩れ落ちた。あまりにも突然のことに誰もが目を見はるなか、彼女は苦しそうに呼吸を繰り返す。痛みに堪えるように頭を押さえる姿に千夜が慌てて駆け寄り、淡島もまたその側へと膝を折った。



「梦ちゃん!?なんで…いきなり、この症状が…!!」
「一先ず病院に連れていきましょう」
「ううん、ダメだよ。病院じゃどうにもならない。これは……っ、」
「ち、よさん…きてる…」
「え?」
「…っ、ここ……鎮目町の、例のとこ……かれ、が…はやくっ、」
「……くそっ。世理ちゃん、ごめん!!梦ちゃんのこと頼んだ!!そのストレインもあげる!!」
「ちょ、八代!?」



淡島が慌てて声をあげたものの、千夜は振り返ることなく走って何処かへと向かっていく。取り残され、現状把握が出来ない中で更なる混乱を呼ぶように空に出現するものが一つ。それを目にし、誰かが知らず知らずのうちに声を漏らしていた。



「黒い、ダモクレスの剣……」





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