偽物さがし | ナノ
善人ごっこ



「いやー俺、驚いちゃったよ」
「何がっすか?」
「例の梦そっくりの女の子が普通に歩いてたから。てっきり七釜戸にいるのかなぁって思ってたのに」
「はぁ!!!?」



何でもないとばかりに言う十束に泡沫と八田は同時にバーカウンターを叩きながら立ち上がった。詰め寄ろうとしたところで二人は襟首を掴んで持ち上げられ、草薙による説教が始まる。言わずもながバーカウンターを叩いたからだ。泡沫は性別は女のため扱いはそこまで悲惨ではないが、八田はたいそう悲惨であった。



「お前ら何か言うことあるやろ」
「「ごめんなさい」」
「…まあ、ええやろ。そんで十束。何時見たん?」
「ケーキ買いに行った時だよ?車道挟んだ反対側を歩いてて…たぶんウサギも一緒だったんじゃないかな」
「泡沫、気付かなかったのかよ…」
「煩い千歳!…と言うか何でマジで気付かなかったんだ……可笑しい可笑しいだろ」
「目先の食い物に集中してたんだろ、どうせ」
「おい、表に出ろ八田」



一昔前のヤンキーのようなやり取りをしながら外に出ていく二人。ほどほどするようにと梦が声を掛けたが、恐らく聞こえてはいないのだろう。それにしても何故アンナも気が付かなかったのだろうかと出羽が呟いた。真っ先に気付いても可笑しくはない彼女が何故。本当に偶然、十束が気が付いただけだったのだろうか。それまで何も言わずにいた周防が漸くとグラス片手に口を開いた。



「……力、使ってたんじゃねえのか」
「力?まあ、それならありうるかもしんないすけど…それじゃあ何で十束さんは気付けたんすか?」
「そう言われるとなぁ…あ。そう言えば真っ白な服装の女の人がこっち見てたから、その視線で気が付けたのかな?」
「女の人、ですか…?彼女が王様だとしたらクランズマンとか…?」
「有り得るかもしれへんな。………やっぱ一度ぐらいは接触せんことには何も分からへんし」



草薙がそう呟くと同時に外から八田の怒鳴り声が聞こえてきた。泡沫に対する声にしては可笑しいと鎌本が様子を見に外へと出る。原因は、すぐに分かることとなった。黄金のクランズマンにしてNo.2の久坂海斗がいたのだから。ウサギとしての仕事を終えた後なのか。特徴とも言える古風な服装をした彼が不機嫌そうに八田を睨み付けている。どうやら先に喧嘩を売ったのは八田のようだ。



「八田さーん、何してんすか。そいつ黄金のとこのウサギじゃないっすか」
「ほら、さっさと帰れよチビ。俺はお前と違って多忙なんだよ。今から帰ってやんなきゃならねえ仕事あるし」
「あんたも八田さんを挑発するのやめてくれ」
「てか、こいつウサギ?ウサギだったのか?」
「空気読め泡沫!」



疲れたとばかりに溜め息を吐き出した鎌本は背後の扉が開いた事に気が付いた。隙間から覗いている面々は巻き込まれたくはないがやり取りを見守るつもりでいるらしい。良いから止めろ!そう叫んでしまったのは仕方がないことだ。海斗は、そんな面々を見て面倒だとばかりに頭を掻くと着信を告げるタンマツを取り、通話を開始した。



「あ?洋菓子、買ってこい?てめえで行け俺は便利屋じゃねーよ。……彼奴の名前出せば行くと思ってんのかボケ干すぞ」
「てめっ、人のことを無視して電話してんじゃねえよ!」
「勝手に売ってきたのはそっちだろうが。……ったく、うっせえな分かったから黙れ。ちゃんと回収しとけよ。おい、チビ。此処の辺で女が喜びそうな洋菓子って何処で売ってんだ?」
「そんなの俺が知るか!」
「使えねえ奴。後ろの奴でも良いや。教えてくれ、このままじゃ帰れねえし」
「あ、それだったら……」
「って何教えてんすか十束さん!」



ご丁寧にタンマツで地図を見せながら説明をする十束に吠舞羅の誰もが呆れたように視線を向けている。等の本人はのほほんとした表情をするのみ。海斗は説明された道順をしっかりと暗記し、選ぶのが面倒なので適当にお勧めのケーキを聞いておく事も忘れない。其処で何やら千歳が女の子に人気のケーキはどれだとかの話へと加わってしまう。



「何か面倒くせえな……端から全部買っていきゃあ良いか。助かったわ、そんじゃあな」
「ねえ、礼儀正しいウサギさん。一つお礼として彼女のこと教えてくれない?」
「礼っつーのはせがむもんじゃねえだろ。…まあ、良いや。あれは馬鹿、以上」
「……え?」
「一つだろ?それに何になんて言ってねえんだから答えた事には変わりはない。何か文句でもあんのか?」
「文句と言うか何と言うか……えー、予想外の答えだなぁ」
「てめっ!十束さんはなぁ!こう見えてもうちの幹部だぞコラッ!」
「こう見えてもって…お前、自分が失礼な事を言ってる自覚持った方が良いんじゃねえの?……十束っつたけ?お前、面白いから一つだけ忠告してやる」
「忠告?」
「これから先は、お前みたいなお人好しタイプは狙われる。あの馬鹿にも目ェ付けられてるみてえだし、死にたくなきゃ気を付けんだな」



そう言葉を放った海斗の雰囲気がガラリと変化する。それに呑まれたように吠舞羅の誰もが何も言えずにいるなか、その背は大通りへと向かって小さくなっていく。あの言い方は、近い未来に何かが起こるとでも言いたげなものであった。ウサギが警戒している何か。梦は知らず知らずのうちに顔色を真っ青にさせながら俯いていた。





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