偽物さがし | ナノ
終末を手繰り寄せた預言者



頭の片隅で響く爆発音に眉を寄せながら梦は手にしていた新聞を机の上に置いた。その新聞の一面は数日前から続いている爆破事件のことについて大々的に書かれている。タンマツを取りだし、今から三十分以内に爆発が起きる場所を地図から探し出す。彼女に分かるのは大体の時間と場所のみ。それによって爆破事件を阻止できるかはウサギに掛かっている。何せ予知は梦の本来の能力ではないのだから。故に大体の事しか分からない。精度を上げることは可能だが、今の彼女の体では現状が精一杯。さて、どうして爆破事件ごときにウサギが動くのか。ストレインが絡んでいる事から事件自体はセプター4の管轄である。だが、動かなければならない理由が存在した。石盤の前に置かれたソファーに体を預けながら、それを見つめていた彼女はついに動き出す。このままでは状況は好転しない。ウサギからの情報によれば赤と青のクラン内でもこの事件による怪我人が出ている。まるで四年前と同じように。



「…御前。ごめんなさい、せっかくウサギを動かしてでも身の安全を諮ってくれているのに…やっぱり動きます」
「……昔からお前は変わらんな。幼子の時から妙に意志が固い。どうせこうなるとは薄々思っておったわい」
「繰り返しは嫌ですから。クランの潰し合いほど嫌なものはありません。それに…何時までもこのままとは行かないでしょう。例え残酷な結末であろうと彼女には思い出して貰わなければならない。そして悲願を叶える事が御前の意思ならば尚更動かなければならない。全てが終わって、誰も幸せになれなくたって仕方がないことです」
「…それで良いのか。自身が一番不幸になると言うのに」
「それが罰と言うならば甘んじて受けます」



哀しげに微笑んだ梦は、そのまま一礼してから國常路の元から退出していく。タンマツでウサギと連絡を取りながら予知した場所へと移動を開始する。それと平行して、とある噂について彼女は思考を巡らせていく。妙に能力の強いストレインによる犯罪件数が一ヶ月のうちに数件起きている。そのストレイン達は何からの外部的要因によって能力を強化されている事がウサギの調べによって分かっている。つまり、この強化型のストレインは誰かが人工的に造り出していることに相違はない。では、その犯人は誰だ。黄金が追っている人間か。はたまた別人か。考え込む梦の前に車が勢いよく停車した。運転手が顔を出し、人懐こい笑みを浮かべる。



「緑のクランの何でも屋!河神紬参上!」
「……紬くん。何か止めた方が良いと思うよ、その挨拶。何て言うか…バカっぽい」
「梦が冷たい子になって戻ってきた!……そんでウサギも付けずに動くなんてどうしたの?」
「…やっぱり見てるだけは嫌なの。四年前だってそうだった。子供だからって遠ざけられて結局…お別れも言えなかった。全部終わった時には何も残ってないんだよ…?証も記憶も何もかも真っ白…今回もリセットされちゃうかもしれない。そんなの嫌だよ」



四年前の当事者である河神は眉を下げながら、助手席に乗り込んだ梦の頭を撫でた。新たな王に使えているとは言え、彼の気持ちもまた四年前から変わってはいない。それは多くの緑のクランズマンにも言える事だ。だからこそ黄金のように動いている。手を組んでいる。目的は、たった一つだけ。行こっか、と優しく言葉を掛けてから河神はアクセルを踏み込む。ナビに指示されるままに車を運転し、隣に座っている梦を横目で見つめる。能力を使ってるのか。顔色が少しだけ悪かった。目的に到着し、車から降りると既にウサギが辺りを経過している様子が見てとれる。爆破能力を持つストレインが予定通りに現れるのを待っているのだ。



「…来るかな」
「……――来た、」



空間を割くように現れた能力者が二人。恐らくもう一人は瞬間移動のストレインなのだろう。そして警戒していたウサギが動いた。それに虚を付かれる形となった爆破能力を持つストレインが動こうとする。だが、不自然な形でその動きは停止した。視線は真っ直ぐ梦に注がれたまま微動にしない。困ったように笑いながら彼女は、口を開いた。ごめんなさい。これ以上は暴れられると困るので動きを止めさせて貰いました。そう何でもないように言いながらウサギに捕縛されるストレイン二人を見つめる。しかし、脳裏に映り込んだ映像に顔色を変えた。



「ウサギさんっ離れて!!!」
「!!!?」



滅多に声を荒げない梦は半ば叫ぶように声を上げる。その声に反応するようにウサギが飛び退く。だが、それよりも早くストレインが自爆をした。舞い上がる煙に目を細めながら、彼女は悲痛の色を瞳に浮かべる。まさか自爆をするなんて考えてもいなかった。そんな事をすれば死んでしまう。だが、死んでも渡したくない情報があるからこその選択。たかが能力を強くしてくれた人間のためにそんな選択をするのだろうか。不自然な自爆によって死んだストレインを見つめながら口許を押さえた梦は、これから起こるであろう出来事を予測した。間違いなくセプター4が動く。それより先に撤退しなければならない。



「行くよ、梦」
「ごめん、紬くん。ウサギさんが怪我してるから治してから行くよ。先に行ってて。緑のクランズマンがいたら怪しまれちゃう」
「ばっそれはお前も一緒だよ!?ただでさえ赤のクランのところにいる双子のせいで…!」
「二人を悪く言わないで紬くん。分かってる、馬鹿な選択だよ。でも、能力を使えば直ぐに逃げられるから大丈夫。行って?」
「バカ梦。王に言い付けるからね!」



それは嫌だなぁ。そう漏らしながら怪我をしたウサギへと駆け寄る。能力を使って怪我を癒しているうちに青の車が視界に映り込む。紬にああ言ったものの間に合わなかったことをぼやきながら突き刺さる視線を受け入れた。未だに怪我が癒えきらないウサギに手を貸して立ち上がらせ、歩み寄ってくる青の王――宗像礼司と向き合う。浮かべられる笑みに騙されぬように彼女は頭を下げた。



「あの時の少女は、貴女ですね。まさか篠宮梦と同じ顔とは驚きです。…何故、此処へ?」
「それはウサギがですか?それとも私ですか?」
「君はどちらだと思いますか?」
「…両方です。ウサギは御前の命によって動いています。私は…知りたい事があったから動いていました。これで満足ですか?」
「君が知りたい事とは非常に興味深いですが…教えては頂けないようですね」
「……詳しい経緯は御前からおって沙汰があると思います。そちらを待って頂けると幸いです」



ぺこりと頭を下げ、それ以降は何も話そうとはしなかった。そんな梦はウサギが後始末を終えるのを待ちながら、怪我の完治していないウサギの手当てをしてしまう。これで青から姿を隠すことは不可能になった。遅かれ早かれバレてしまうことだったからと彼女に後悔はない。向けられる一対の鋭い視線を浴びながら梦は目を伏せた。





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