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朝早くの事。日課の水やりをしているば珍しく誰かが早起きしたらしく中から階段を降りてくる音がした。取り敢えず花に水をやりおえ、室内に入れば驚く事に寝坊常習者の藤堂が笑いながら立っているのを目が捉えた。




『……今日は槍が降るな』

「失礼な事言うなよな、人が折角頑張って起きたのによ」

『悪かった。それで頑張った理由は何だ?』




そう問い掛ければ、待ってましたとばかりに満面の笑みで何やら二枚のチケットを取り出す。どうやらいま人気の映画のチケットのようだ。それで、これがどうかしたのだろうか。




「あのさ、雪。俺と映画に行かないか?」

『別に良いよ。チケット二枚あるみたいだし』

「よっしゃあ!!じゃあさ、総司達に邪魔されたくないから10時に映画館の前で待ち合わせしようぜ」

『お前が良いなら異論ないな。10時に映画館の前だな』

「ああ!」




ご機嫌な様子で、もう一眠りするのか上へと戻っていく。自分も出掛けるなら一度、部屋に戻らなければ。そう思いながら階段を上がって三階の自室へ入った。机の上に放置したままの携帯のディスプレイは現在時刻を7時だと告げており、時間まで三時間有るわけだ。しかも、この時の携帯には既に着信履歴が沢山溜まっていたのだが、あえて無視をして着替えを適当にクローゼットから取り出す。




『にしても藤堂の奴、何で私を誘ったんだ?』




相手なら雪村や姫さんなど選択肢がまだあったはずだ。彼奴が自分で良いのなら何も言わないが兎に角、さっさと準備を終わらせてしまおう。そう考えてからの行動は早く、すぐに準備を終えてしまった。藤堂との待ち合わせは時間があるが、先に行ってしまおう。そうすれば他の奴等には絡まれまい。




「雪、何処かに行くのか?」

『ちょっとな。たぶん昼は外で食べてくるからいらない』

「……」

『な、何だよ』

「デートではあるまいな?だとすれば俺は相手を許さん。そうでなくとも男と出掛けるのも許さん」




おいおい、藤堂。お前もしかしたら斎藤に殺されるかもしれないぞ。




『クラスの女子とだよ。分かったんなら変な詮索するな。ストーカーだと訴えるからな』

「ストーカーだと?そのような輩と一緒にするな。俺は正々堂々と後を付ける」

『なに真面目な顔で危険発言してるのお前』




変人だと思っていたが、此処まで来ると変態の域。斎藤の妨害にあっている間に時間は待ち合わせの一時間前。ちなみに藤堂は斎藤に絡まれている間に、こっそりと出ていった。遅刻だけは失礼だからしたくはない。




『いい加減にしろ。時間に遅れる』

「安心しろ。明日、共に謝る」

『安心できないから』




しつこいので実力行使。ちょっとばかし蹴りを入れて玄関から外へ飛び出した。悶絶していたが気にせずに走って映画館へと向かうバスに乗り込む。これで遅刻は免れた。バスに揺られているうちに映画館はどんどんと近付いてくる。




『っと、次だな』




そう呟いてから直ぐにバスを降り、歩いていけば藤堂が手を振りながら駆け寄ってきた。




「一君から上手く逃げれたんだな」

『ああ。蹴りをいれて動けない間にな』

「一君に蹴りって…取り敢えず中に入ろうぜ」

『そうだな』




藤堂に手を引かれながら映画館へ入り、上映中に飲んだりするジュースを購入する。何故か、その間も手を繋いだままだ。やがて上映の10分前になり、入場を開始する。




『映画なんて久しぶりだから楽しみだ』

「ほんとか?なら誘ったかいがあったよ」







◇◆◇◆◇◆◇




映画の内容は面白いものだった。多少、恋愛系の物だったが笑いもあったからそんな感じはしない。ちょうど昼の時間でもあったので近くのファミレスへと入る。メニュー表を見ていれば、目の前の藤堂の視線を感じた。視線を藤堂に向ければ、やはり目が合う。




『どうかしたのか?』

「え、いや…雪って、やっぱし可愛いなって思ってさ」

『可愛い?有り得ないよ、そんなこと』

「ほんとだってば!雪って美人だし俺とかに比べたらすげえ華奢だから守ってやりたくなるって言うか…ああ、何言ってんだ俺」




照れたように顔を隠しながら「とにかく可愛いだよ!!」と彼は言う。何だかその様子が面白くて自然と笑みになっていた。本当に藤堂って他の奴と違って一緒に居ると楽しいし何より危険を感じない。




『やっぱり藤堂といると安心する』

「だったら俺と……俺と付き合ってください」

『付き合うって事は…』




恋人同士になると言うことなのだが、正直そんな事を考えた事がなかった。まあ藤堂なら考えなくもないかと思い、真剣に考えていると突然、藤堂の顔から血の気が引いていく。




「ふうん、隠れて二人でデートしてたんだ。へえー」

「平助…覚悟は出来ているな?」

「俺の雪に手を出そうなんて生意気だね、藤堂」

「子猿ごときが俺を差し置いてデートなど許さん」




私の背後に真っ黒なオーラを纏った四人が立っていた。藤堂の顔から血の気が引いた理由がよく分かったから、どうか消えてくれ。




「…な、何で……」

「今って便利だよねぇ、GPSなんてものがあるんだから」




南雲の言葉に互いに自分の携帯へと視線を移す。些か引き攣り気味の表情で顔を見合わせ、私は手を合わせた。



藤堂、成仏してくれ。



その後の事は藤堂のためにも見なかった事にしておこう。




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