本日も奴等は大変鬱陶しい。抱き着くセクハラは、もう当たり前。最早、それが挨拶状態。大概にしろよ馬鹿共と言いたいぐらいだ。どうして、学校でも家でもやられなければならない。はぁ…と溜め息を吐き出し、ペンをくるくると回しながら、静かにお茶を飲む。あ、此処でですが…私、家出してきました。だって、もう耐えられませんから。
『助かったよ、ありがとう』
「良いのよ、雪。困ったことがあったら力になるって言ったじゃない」
『ほんと姫さんだけは、まともで良かったよ』
そう、私が居るのは姫さんの家。この子だけは本当に、まとも。これが唯一の救いだ。だから、姫さんの家に避難をしたのだ。出してくれたお茶はハーブティで気持ちを落ち着かせてくれる。久し振りにセクハラもされないから本当にゆっくりと出来て気分が良い。
「大丈夫?少し痩せたんじゃない?」
『気苦労が多くてさ。なぁんで女になっちゃったんだろ。…男の方が楽』
「性別が変わっちゃったのは貴女だけだものね。でも良いじゃない。また違った人生を楽しめるもの」
『そうかなぁ…』
確かに性別が違えば違うものもあるだろう。けれど本当に大変なんだ、毎日が。たまには気を抜きたい時だってある。そう思っていると携帯が鳴った。相手は沖田。出てみれば帰ってきての一言。次に来たのは斎藤。これまた同じ言葉が電話越しに囁かれる。……何だ、罪悪感を感じるぞ。
「くすくす…帰ってあげたら?嫌われるより好かれてるんだから良いじゃない」
『ん、そうするよ。嫌になれば出てくれば良いんだし』
姫さんに礼を言って家を出れば外には沖田と斎藤。どうやら、ずっと外で待っていたらしい。二人に抱き締められた時に手が冷たかった。更に罪悪感が増すのだが、これは痛み分けと言う事で良いだろう。
「帰ろ、雪ちゃん」
『ああ。……何だ、この手は』
「別に良いだろう。冷えた手ぐらい温めてくれても」
『あれ?ちょっと何で上から目線?』
「ぎゅってさせてくれた方が良いんだけど我慢してるんだから、これぐらい良いじゃない」
両の手をそれぞれ恋人繋ぎをしながら歩く。此処から家までは、そう遠くないから少しの間だけ我慢をすれば良いのだろう。仕方無い、我慢をしよう。繋いだ手が寒くなってきた今日この頃は温かい。と言うか、斎藤の顔が赤くないんだけど。何時も照れんのに照れてないんだけど。そう思っているうちに家に着いた。中に入って直ぐに再び抱き着いてくる。
『玄関先で何してるんだ、離れろよ』
「そうだ。離れろ、総司」
「やだよ、僕は雪ちゃん欠乏症なの。今日ぐらい許してよ」
耳許で囁かれると恥ずかしくて顔に熱が集中してしまう。つぅか此奴の低音の声はまずい。斎藤は斎藤で私の手を離さない。だから、どうして玄関先から動かないでいるんだよ。奥で座りたいんだけど。
「んー、雪ちゃんの腰って本当に細いよね。あ、乱れた君を見たくなってきたかも」
姫さん、早くも家出したくなってきました。今日の沖田は何時もより変態です。
『助けてくれ、土方ぁぁぁ!!』
「…また、やってんのか。懲りねぇ奴等だな」
「引っ込んでいて下さい、土方先生」
今日の斎藤は何故か土方に対する扱いが雑だ。土方の額がピクピクしてるの分かってる?とばっちりを受ける前にそろそろとリビングへ避難をする。数秒後、雷が鳴り響いた。リビングでは呆れ果てた原田と藤堂。うん、やっぱり藤堂が一番ましだと思いました。絶対にセクハラしないし、これ以上無く安全だ。
『藤堂、お前だけはそのままでいて』
「お、おう!」
手を握りながら言えば、頬を赤く染める。こういう反応を見るのは久しぶりだ。何時も、さらりと変態発言をする奴ばかりだから尚更そう思う。沖田とか風間とかが特にそうだ。
「「平助…」」
「げっ!!」
地を這うような声とともに頭にトリプルアイスクリームを作った二人が恨めしそうに此方を見ていた。急に、にっこりと笑みを浮かべながら手招きをし始める辺りは更に恐怖に拍車をかけてくる。藤堂から手を離し、ゆっくりと後ずさった。その後はご想像通り。ええ、派手な喧嘩にも思える事を始めていた。私、知りません。
「飯は七時だからな」
『はーい』
自室へと避難をしようとしていた私の背に原田が言った。それに返事を返し、急いで三階へと上がり、鍵を閉めた。
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