原田から貰った防犯ブザーはたいそう役に立っていた。それは、もう本当に。
ケース1
放課後の学校での事である。例の如く風間からの着信履歴が気持ち悪い事になっていたので仕方無く生徒会室に行った。そうすれば椅子にふんぞり返りながら口許を緩めている風間。今の顔を鏡で見てみろ、と言いたくなる程にやけていた。
「この俺に会えずに寂しかったのか?」
『いや、全然。着信履歴が気持ち悪かったから用件があるかと思って来ただけだ』
「そう照れるな、何れは一緒になる身だ」
『話が激しく噛み合って無いんだけど、やだ此奴。つーか近付くな』
じりじりと近付いてくるのが大変うざい。何って言うのか、追い詰められた小動物の気分だ。人の肩を勝手に抱き寄せ、風間は笑う。この見下したような笑みが人気らしいが理解出来ない。そんな事を思っていると顎を持たれ、くいっと上を向かせられる。
『ちょっと風間さん?何しようとしてんの?』
「キスに決まってるだろう」
『どや顔で言うの止めてくんない?と言うかしないし』
「一度すればクセになるかもしれんぞ?」
取り敢えず無理矢理しようとしたのでポケットに入れていた防犯ブザーを鳴らしてやった。突然の大音量に驚いたのか動きが止まる。その隙に突き飛ばして、駆け付けてきた天霧と不知火に押し付けて帰路に着いた。
ケース2
今もっとも天敵である沖田が側まで寄ってきて当然のように抱き着いてきた。新聞が読みにくかったが無視をして読み続ければ、横から何度も名前を呼ばれて煩い。くたばれば良いのに…。
「雪ちゃん、これ以上無視するとキスしちゃうよ?」
『……何だ』
「今日さ、雪ちゃんの部屋に行っちゃ駄目?僕、二人っきりになりたいなぁ」
『駄目に決まってるだろ。危険人物を入れられるか』
そう言うと拗ねたように口を尖らせ、「なりたい」等とごねる。中身は完全に餓鬼なので相手をせずにひたすらシカトを決め込む。不意に耳に息を吹き掛けられた。びくり、と肩を揺らして耳を押さえる。
「顔、赤くなってる」
『お、おま…何して………』
「だって無視するから」
切ない表情で、そう言った奴の手は何故か私の太股に触れていた。しかも撫で回している始末。これってレッドカードだよな、と思いながら躊躇なく防犯ブザーを鳴らした。
その後、セクハラ紛いの事をする者は例外なく鳴らされていた。中には女子まで存在しているのが頭痛の種である。そんななか、未だに鳴らされた事がない者が二人居た。
「雪、少しばかり訊きたい事があるのだが…」
『どれ?……あれ、斎藤って生物出来たよな』
「こ、これだけは少し分からないのだ…」
『ふぅん…まぁ良いや。これは――』
こんな感じで気が付けば勉強会を始めていた。煩いのが居ないので珍しく集中してやれていた。この際、斎藤との距離が近いのは気にしないでおこう。気にしたら負けだ、負け。でも、やっぱり近いんですけど。
「…どうした?」
『いや、近いから離れた』
「別に近くなどない」
『そう言って何故寄ってくるのかなぁ。……へ?』
間抜けな声と共に引き寄せられ、気が付けば床と背中合わせ。そして視界一杯に広がる斎藤の顔。しかも何時ものように頬を赤らめていないのが益々、嫌な予感に拍車をかけてくる。
『さ、斎藤……?』
「俺は…あんたの事を本気で、」
そう言いながら細く長い、綺麗な指を私の指に絡める。この展開って本気でやばいのではないか、と警鐘が頭の中で鳴り響く。頼むから正気に戻ってくれ…!
『取り敢えず退いてくれると助かるんだけど…』
「そうしたら、あんたは逃げるだろ」
『逃げないから!この体勢だと辛いんだよ』
「俺としては、このままが良い」
………斎藤がご乱心だよ、これは。
流石に今回ばかりは何時ものように誰かが助けてくれそうにもないので冷や汗が背を伝っていく。そんな人の気も知らずに此奴は機嫌が良さそうに笑っていた。不意に頬に手が添えられ、真っ直ぐに此方を見る深藍の瞳と視線が交わる。
「俺は本気であんたを好いている。付き合ってくれまいか?」
『…………その前に、お前…何か熱いんだけど』
そう言うと同時に熱があるらしい斎藤が倒れ込んできた。当然ながら下敷きになる私。やっとの事で這い出してくると、斎藤の熱は思った以上に高い事に気が付いた。このままにしておくのは可哀想なので仕方無く家に居た永倉に運ぶように頼みに行った。
その次の日。すっかり治ったらしい斎藤は沖田と一緒に土方の前で正座をしながら説教をされていた。
「総司に続き、お前もか斎藤…!!」
「申し訳ありません、土方さん…」
「狡いよね、一君。熱の勢いで雪ちゃんを押し倒すなんて。僕、未だ一度もやったことないのに」
「い、言うな、総司!!」
「…取り敢えず、お前等は二週間の間は彼奴に近付くな。分かったな」
「嫌ですよ、そんなの」
そう言い募る沖田に雷を土方は落とす。その様子を藤堂と並んで見ていると呆れたように藤堂は溜め息を吐いていた。良く良く考えると一番安全なのって此奴だけな気がする。
「雪、腹減ったからどっかに食いに行こうぜ」
『それも良いな。準備してくる』
「おう」
自分達の背後で土方が困ったように溜め息を吐くほど、藤堂を睨む二人が居たのを雪は知らない。寧ろ知らない方が幸せなのだろう。
――――――――
アトガキ
何か段々と可笑しくなっていきますなぁ…
でも連載やりたくなってきた、でも出来ない
何時の日かやれたらいいな
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