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あー、引っ越ししたい。
目の前にある大きな家を見ながら呟いた。普通なら、こんな家に住んでいて思う事はないだろう。だが、此処は自分の家ではない。以前は風間の家に昔と同じ様に厄介になっていたが、通学が非常に不便だった。だから寮に入ろうと思ったのだが何故か希望生が多く満杯に。其処で近藤さんの所有している馬鹿でかい家に住む事になった。だが、しかしながらそれには大きな問題が。同じ理由で剣道部――つまり新選組の奴等も居たと言う事。学校でも問題が山積みなのに放課後もこれなのだ。気が休まる事はない。本当に疲れる。



けど三階丸々使わせてくれてるし、三階に入れないように鍵も着けてくれたんだよな。



あれはマンションに住んでると言っても過言は無いだろう。それを考えれば苦労に見合うっているのかも。玄関の鍵は開いているので中に入ると真っ直ぐ三階にまで上がる。扉の鍵を開けて三階のフロアに入った。自室として使っている部屋に鞄を置き、着ていた制服から私服に着替えてキッチンへと行く。冷蔵庫の前に貼られてる張り紙を見て今日は彼奴等とご飯を食べる日(強制決定)だと思い出した。




『さいとー、今日はどうすんだ?』




一階まで降りると此処で一番料理を作れる斎藤へと声を掛ける。既にキッチンに居たのは流石だと思った。今日の献立を見せられ、驚いた。だって真っ白で何も書かれてないんだよ、どういう事よ。




『…分からないんだけど』

「今日はあんたに作って欲しいと全員一致で決まった。だが出来る事なら俺も手伝う」

『えー、そんなの聞いてない』

「今言ったからな」




僅かに悩んだ様子で冷蔵庫の中を物色し始める。暫くすると決まったらしく足りない物を取りに行く。戻ってきて直ぐに料理を開始した。一人では大変なので斎藤にも手伝って貰う。尊敬するぐらい男として手際が良いので直ぐに準備を終えられた。後は揃いのを待つのみ。




『にしても斎藤と結婚した奴は楽だろうな。家事全般が出来る訳だし』

「…本当にそう思うか?」

『思うけど…?』




何故か手を両手で握られ、真剣な表情を見せる斎藤。戸惑ったように雪は眉を下げる。




「ならば俺と結婚を前提にt「何やってんだよ、一君!!!!」

『あ、藤堂に沖田…』

「抜け駆け禁止だよ」

「…あんた達は最悪なタイミングで帰ってくるな」




あーあ、また始まったよ。



もう相手をするのも面倒なので放置する事にして用意してあったご飯を食べる。そうしたら三人とも黙って席に着いて夕食を食べ始めた。暫くすると土方等教師連中も戻ってきた。




「お、旨そうじゃねえか」

「雪が作ったんだってな」

『うん』

「てめえ等、うるせえぞ!!」




話をしている横で騒がしい三人に土方の雷が落ちた。それで漸く土方達が帰ってきた事に気が付いたようだ。それぞれ拳骨を一発貰って事は終了した。帰ってきた三人の分を用意し、騒いでいる間に食べ終わっていた食器を洗って三階へと戻る。




「何だ?もう戻っちまうのか?」

『土方先生が鬼のように出した課題を片付けたいから』

「其処まで言うほど出してねえだろ」

『いや、出してる。前回より二割ほど減っていたけどな』

「あれだけ出してて二割も減ったのか…?頼む、雪!手伝ってくれ」




課題の話を持ち出した途端に顔を青くさせていた藤堂が手を合わせて頼み込んでくる。そういや何時も四苦八苦しながら片付けてたんだっけ?とか思いながら仕方無さそうに溜め息を吐き出した。




『……今回だけな』

「やった!ありがとな!!」

「おい、別に手伝わなくて良いぞ」

『どうせ明日は休日だから良い。丁度、暇だったし』

「あ、じゃあ僕も」

『お前は嫌だ。どうせ、やらないだろ』

「そういや総司…てめえ今日、提出のプリントはどうした」




やはりプリントを提出していなかったらしい沖田に土方の怒りが炸裂した。もう煩いので「明日、手伝う」とだけ告げて三階へと引っ込む。リビングまで課題を運び、音楽を聞きながら片付けてしまう。量は多いが其処まで難しい訳ではないのが、せめてもの救いだ。ちゃんと考えて出してはいるらしいので教師って大変だと思った。




『もう寝るか…テレビもつまらないし』




この階にある風呂に入り、早々に寝る準備を終えてベッドへと入った。暫くは寝れず、本を読んでいたのだが気が付けば眠っていた。








◇◆◇◆◇◆◇




むっ…何か、狭い……?



ベッドが何時もより狭い気がする。しかも温かいし圧迫感みたいなものがある気がする。寝惚けた頭で考えながら寝返りをしようとしたが出来なかった。その事に疑問が生じ、重い瞼を持ち上げる。




「あ、おはよう」




回らない頭で目の前に居る奴を見ながら瞬きを繰り返していると頬に何か柔らかい物が触れた。瞬間、状況が理解出来ずに硬直してしまう。




『はっ、え…な、何……?』

「もしかして寝惚けてるの、雪ちゃん?」

『………おき、むぐっ』

「はいはい、大声出そうとしないで」




沖田、と叫ぼうとした私の口を奴が塞ぐ。どうして此奴が此処に居るんだ!?頭がパニック状態の私を見て楽しそうに、にっこりと笑う。つーか、近い!


ベッドが狭いのも圧迫感が有ったのも全て沖田がくっついて来ていたから。漸くそれに思い当たり、苦い表情で口を塞ぐ手を離して貰おうと目で訴える。だが、「あはは、可愛い」とだけ言って手を離してくれない。




『…っ、いい加減に苦しい……!』

「外されちゃったか。面白かったのに…」

『残念がるな!何で此処に居るんだ、この変態沖田!』

「鍵が開いてたから入って良いのかなぁって思ってさ。そしたら寝てるんだもん」

『だったら起こすなり出ていくなりするべきだろ!?』

「そんなのつまんないじゃない。それに無防備な君が悪いんだよ?」




そう言って意地が悪そうに、くすくすと笑う。あっ、むかついたから殴って良いかな?良いよな、これ。その前に早く離れて欲しいし、出ていって頂きたい。必死に離れようとしたが、腰に回された腕がそれを許してはくれない。しかも隙有らばキスをしようとしてくるから堪ったもんじゃない。




『嫌だ、止めろ沖田!!』

「そんなに抵抗されると益々やりたくなるんだよね」

『最悪だ、お前…!服の中に手を入れるな、気持ちが悪い…』

「えー。据え膳食わぬは男の恥って言うじゃない」

『ふざけた事言ってるな!!……土方ぁぁぁ!!!!』




もう収集がつかないので保護者を大声で呼ぶ。そしたら、あからさまに不機嫌になる沖田。土方が来るまでの間、必死に格闘を続けていた自分が物凄く偉かったと思う。




「……朝から災難だったな、雪」

『災難どころじゃない』




沖田が説教されている斜め後ろで着替えを済ませてアイスティーを飲んでいると騒ぎを聞いた原田が話し掛けてきた。そんな相手に短く返し、疲れた様子で溜め息を吐いた。あれ、最近溜め息を吐きっぱなしな気がする。




「疲れてんな…そんな、お前にこれをやる」

『防犯ブザー?』

「今日みたいな事があった時に直ぐに鳴らせ。それに、ただでさえ可愛いんだから、夜道も危ないだろ?」

『可愛いは置いとくが…確かに助かるな。風間辺りが近付いてきたら即刻鳴らそ』

「近付いただけで鳴らすのだけは止めとけ」

『はーい。ありがと、原田』




雪の中で原田に対しての好感度が1上がった瞬間だった。




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