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どうして、こんな事になってしまったのだろうか…本当に涙が出てくる。昔はこんな事はなかった。寧ろ扱いが酷かったぞ、特に風間。彼奴には滅茶苦茶振り回された。あ、今もか。だが、しかし。他の奴等…特に新選組。此奴等の態度が違いすぎて気持ち悪いの一言に尽きる。誰か理由を教えてくれ。




「雪ちゃん!」




――来た。
頼まれたプリントを運びながら悶々と考えていると背後から声を掛けられた。次の瞬間には背中と首周りに感じる重み。首に腕を回し、抱き着いてきたのは沖田。昔は敵対視してたから絶対に有り得ない光景で。と言うか有り得たら気持ち悪いを通り越して死ねる。


此処で、だが補足をすると自分が言っている昔とは前世の事である。此奴しかり、他の奴等も覚えている。だからこそ本当に有り得ない。しつこいようだが、何度でも言おう。本気で有り得ない。何せ前世は敵で、しかも男だった自分にこうして抱き着くか普通。真面目に思考回路がショートしているのではないだろうか。




「ねぇ雪ちゃん、何処に行くの?」

『土方先生にプリント渡しに行く。分かったら離れろ』

「相変わらず冷たいなぁ…でも、そういう所も好きだよ」

『気持ちが悪い言葉を発するな、離れろ運び辛い』




本当に何故こうなった。離れない沖田に鬱陶しさを感じながら国語科の準備室へと向かう。突然、不満そうな声と共に背中から重みが消えた。振り向けば斎藤が沖田の襟首を持っている。引き剥がしてくれた事には礼を述べておく。出来れば、そのままそいつを連れて教室に戻ってくれると有り難い。そう思ったのだが斎藤は沖田から手を離してしまう。内心、舌打ちをしたくなった。どうして手を離しやがった。




「随分な量だな。手伝おう」

『え…、悪い』

「気にするな」




何時もは無表情なのだが、今は仄かに笑みを浮かべた斎藤がプリントの山を半分持ってくれる。お陰で随分と軽くなった。そうしたら沖田が残り半分を持ってくれるので仕事が無くなった。




『…悪い二人とも、先に教室に帰る』

「駄目だよ、元は君の仕事でしょ」

「己の責務を最後まで果たせ」




と言われてしまったので何も持たずに黙って国語科へ行き、扉を開けて中に入った。けれど仕事を頼んだ張本人の姿がない。取り敢えず机の上に置いて教室に戻る事にした。…したのだが、二人が両サイドに居るので非常に面倒くさい。私を挟んで険悪な空気を出すな。




「雪じゃないか!!」

『うわっ、南雲…?!』




彗星の如く腰周りに抱き着いてきたのは南雲。今度はお前かと、ついつい口に出してしまう。先程から居る二人に勝ち誇ったような笑みを浮かべて見せ、腰に回した腕に力を込める。地味に痛いと思っていれば三人で口論を始める。ねぇ、だから何で私を挟んで喧嘩するんだよ。




「離れろ、南雲」

「嫌だね、俺に命令しないでくれるかな。後、死ね沖田」

「君が死になよ。それより誰の許可を得て抱き着いてるのかな?」

「少なくともお前からの許可は要らないはずだよ。…雪、こんな奴等の相手してないで昼にするよ」

『今日は雪村と藤堂とだから無理だな。二人が良いなら良いけど』




そう言うと見事に三人は固まり、藤堂に対しての恨み事とも取れる言葉を発して走っていく。めでたく自分は解放された訳なのだが、何だか嫌な予感がするのは気のせいだろうか。……今のうちに弁当を取りに行って屋上に行こう。そんな考えが浮かぶと同時に携帯が震えた。ディスプレイを見て苦い顔で「げっ」と呟く、正直出たくない相手だ。躊躇していると電話は切れた。




『うげぇ…何だよ、この着信履歴…』




着信履歴を埋め尽くすのは風間と言う二文字のみ。二分おきに掛かってきていたようだ。此奴も凄いが、今まで気がつかなかった自分も凄い。掛け直そうかと思っていると再び掛かってきた。




『もしもし…』

【漸く出たか、貴様は。今何をしている】

『弁当取りに教室に帰ってる途中』

【ならば教室で待っていろ】




一方的に言って奴は電話を切った。私の事情は全力で無視か。今更言うのも面倒なので溜め息を吐くだけにしておいた。そして教室に戻って一秒で後悔した。何で、この馬鹿は自分の机に偉そうに座って足を組んでるんだ。ついでに言えば派手な白い…明らかに校則違反の学ランを着てドヤ顔は止めろ。果てしなくうざい。昔から変人だったけど此処まで来るといっそう清々しい事この上ないが、関わりたくはない。




「ふん、随分と遅かったな」

『いや、何で?何でお前が居る訳』

「教室で待っていろと言ったはずだ。にも関わらず貴様は居ないから、こうして居る。相変わらずの鈍さだな」

『走ってきた奴に言われたくないんだけど』




何処からどう見ても走ってきたらしい風間は未だに息が整っていなかった。どうして走ってきた。取り敢えず訊くのも面倒なので弁当を鞄から出して「じゃあな」と後ろ手を振って教室を出ていく。だが、それには風間が要らないオマケとして着いてきた。このままでは非常に面倒くさい事態が引き起こされてしまう。




『私さ、雪村達と昼食べるんだよ。お前は来なくて良い』

「照れるな我妻よ」

『照れてねえよ、何処に照れる要素が有った。と言うか、お前の妻は雪村だろ』

「そんな昔の事に決まっているだろう。何だ、嫉妬か?」

『そう思えるお前の思考回路がめでたいな』




わざとらしく溜め息を吐き出し、結局屋上まで着いてきた風間に視線をやる。…帰れよ。仕方がないので屋上の扉を開け、再び閉めた。何だ、今の光景は。閉めた扉を開け、また閉めた雪の表情は信じられない物を見たと物語っていた。



藤堂が…何か朝よりかげっそりとした藤堂がボコボコになってた……?




『……帰るわ、何か御取り込み中だったしな』

「俺が哀れな貴様の昼に付き合ってやろう」

『けっこ(バンッ――!!』




人の言葉を遮るかのように大きな音を立てた扉の向こうには雪村。その目は敵意に燃えていた。




「どうして雪さんと貴方が一緒に居るんですか。私と約束があるんですから、帰って下さい」

「ほう…俺に意見するか」

「こないだも邪魔されたんですから当然じゃないですか。行きましょう、雪さん」

『あ、ああ…』

「待て、許すと思っているのか」

「しつこい男は嫌われますよ、風間さん」




雪村はにっこりと笑いながら言い放った。此処まで喧嘩を売れる度胸も凄いが奴の機嫌の悪さをどうする。見るからに不機嫌そうだが、このままでは埒が明かないし弁当も食べれない。それは嫌だ。くいくいっと、袖を引っ張り風間に耳打ちをする。そうすれば満足そうに笑みを浮かべて帰っていく。現金な奴だな。




『それじゃあ昼にしようか…ってさぁ、食べ難いから離れろお前等』

「あ、その玉子焼き頂戴?」

「風間に何って言った訳」




座った途端に左右に引っ付く二人に言えば完全に無視された。傷付くんだよ、それ。分かってるのか。そんな私の心情を知ってか知らずか再び口論を始める。其処には雪村と藤堂も混ざっている。あのさ、本当に何でこうなったのかな。しつこいけどね、本当に不思議なんだよ。しかも人の弁当の中身を争奪戦にまで格上げするのを止めろ。せめて昼ぐらいは平和に食べさせてくれ。




『あー、もう分かったから止めろ。好きなの一つづつやるから、黙れ』

「本当か!?じゃあ俺は唐揚げもーらい!」

『持ってけ持ってけ』




最早投げ遣り。これぐらいで済むなら弁当の一つや二つぐらい献上してやる。これで、この下らない口論は幕を閉じるかと思っていたのだが考えが甘すぎた。奴等はとんでもない爆弾を落としてくれた。




「ねぇ、あーんってしてくれないの?」

『…………はっ?』

「だから食べさせてくれって言ってるんだよ。あ、俺だけで良いから」

「薫!そんな事してくれって頼むなんて何考えてるの?!」




そうだ、そうだ。もっと言ってやれ、妹よ。




「そんなの私がやって欲しいんだから!」

『……………雪村?』

「雪さん、そのミニロールキャベツが食べたいんで食べさせて下さい」




……うん、この子も馬鹿の仲間だったのか。いや、分かってたけどさ。



その後、やったのかって?ええ、やりましたとも。それも全員に。絶対に二度と、この面子じゃ食べたくないですね。もう一度言うけど、前世は男だから。その事を忘れてるんじゃないか、お前達。ほら、フィルター掛けて見てご覧なさい?男が男に食べさせてるって絵的にもきもいだろ?一人称を俺にしたら分かってくれるのか、此奴等は。頼むから正気に戻ってくれ。


風間に耳打ちしたことは「今日、電話掛けてやるから」と言う言葉。彼女は電話に出なければ掛けてくることなんて滅多にない。その日、電話が掛かってくるまで風間を携帯を見つめ続けていた(天霧談)

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