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未だに対新選組との心の傷が塞がらない雪。真っ白になりながら茶器を持っていた。其処へ前日見た女鬼にそっくりな顔立ちの男鬼がやってくる。真っ白の雪を見てひっぱたいた。




『何すんだよ、南雲。急に叩きやがって…』

「ああ、ごめん。真っ白になってたから、てっきり死んだのかと思って」

『お前ほんと嫌だ。分かっててやったくせに』

「そう怒るなよ、久し振りに会ったんだし」




そう言いながら隣に腰を降ろす。その際に俺の足を思い切り踏みつけて。どうして鬼はこうも加虐心の強い奴ばかりなのだろうか。そのうち本当に泣くぞ。南雲は座ってからというもの日頃の鬱憤を愚痴として言い始めた。こうなったら止まらない。それを理解している俺は黙ったまま静かに聞いていた。不意に話が例の女鬼へと移る。




『見たよ、例の妹。双子って言うだけあって、そっくりだったな』

「そう、見たんだ…。彼奴は狡いよ、今も昔も何も知らずに幸せで。俺の事だって覚えてなかった」

『小さい頃だから仕方ないんじゃん?』

「でも俺は覚えてる!それに男ってだけで何れだけ惨めな思いをしたか…!!」




感情が高ぶった南雲は半ば叫ぶように言う。そんな南雲を宥めるように頭を撫でる。一度は手を弾かれたが負けずと撫でていると、そのうちされるがままに大人しくなった。




『こんな事を言うとお前は怒るけど、俺はお前の事を理解してるつもりだ。妹の方は何にも知らないけど彼女だって大変な目に遇ったと思う』

「何で彼奴が大変な目に遇ったと思うんだよ…」

『世の中に苦労しない奴なんていない。まぁ鬼としては恵まれてるかもな』




名家の出なのだから滅んでいなければ裕福な暮らしが出来ただろう。だからと言って苦しまない事はない。生きている限り鬼でも人間でも苦しむ事は沢山ある。其処には多少の差はあれども、それを不幸と思うかの気持ちの持ちようだ。




「…お前はどうして、そう思えるんだよ。一族に命狙われて…憎いって思わない訳?」

『俺?まぁ異端児の俺を一応は育ててくれた訳だし、その後は風間の処だしなぁ』




幼い頃からずっと風間の処で育てられた。生まれた時から異端児扱いされ、恐れられて…。十を越えた辺りから一族の人間に命を狙われ始めた。きっと彼等は怖いだけなのだろう。異端児扱いをされた腹いせに殺される事が。だから俺としては恨む気持ちはない。だって俺を死ぬまで愛し育ててくれた両親が居たから。それだけで充分だ。




「ほんとお人好しも良いところだよ。それで死ぬんじゃない?」

『かもな。お前も寂しいなら早く妹と和解するんだな。それまでなら付き合ってやるよ、お前のやる事に』

「嘘ばっかだな。付き合った事なんてないくせに」

『言っとくけど流血沙汰以外は付き合ったぞ。例えば南雲の話し相手』

「それだけだろ。…妹に会いに行くのに付き合ってよ」

『あっ、それは無理。新選組、怖いんだよ。傷抉られる気がする』




そう答えると無言で凄く良い笑み(褒め言葉ではない)を浮かべた南雲が大通連を抜く。「今すぐに抉ってやろうか」と言う言葉に丁重にお断り申し上げておく。まったく何時から、こんな奴になったんだ。




『落ち着け。南雲、お前が復讐のため以外に会いに行くなら付き合ってやる』

「そうじゃないなら?」

『付き合わない。…兄妹で憎み合う必要なんてないだろ?少しずつお前の苦しみを理解して貰っていけば良い』




それまでは俺が理解してやる。
そう言って口を閉じれば、ふいっとそっぽを向く。ありゃりゃ機嫌を損ねたか?




「……明日会いに行く」

『そうか。なら付き合うよ。また明日な』




ひらひらと手を振り、遠ざかっていく彼の背を見送った。




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