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結局その日は酒を呑んで(風間だけ)終わった。本気で婚活する気があるのかよ。そして翌日。気持ち良く眠っていると蹴り飛ばされ、庭へと転がり落ちた。不機嫌そうに目を開け、室内へ視線を向ける。其処には案の定、風間が居た。起こすなら他に方法があるだろ。




『…何だよ、風間。蹴っ飛ばしやがって…擦り傷出来たじゃん』

「何時までも起きぬ貴様が悪い。今日こそ見に行くぞ」

『今日こそって昨日はお前が勝手に酒呑んでたんだろ。ったく…』




頭を掻きながら立ち上がり、夜着に付いた土を払ってから部屋へと戻る。奴はさっさと何処かへと行ってしまい、慌てて着替えて後を追う。と言うか何で朝から振り回されてんだ、俺。面倒臭そうに溜め息を吐き、走る事を止める。そうしたら早くしろと怒られた。やがて風間は新選組の屯所の前で足を止め、嬉しげに笑い出す。おい、変人がいるぞ。そんな奴を若干…かなり引いた目で見た後に距離をとる。こんな奴と同類に見られるのは御免だ。



あー、もう帰りてーわ。帰ろっ。



正直、雪村の血をひいた純血の女鬼になんて興味がない。そもそも嫌がる女に無理強いはしたくはない。踵を返せば思い切り襟首を掴まれ、先程まで居た位置に戻される。その際に、ぐえっと蛙の潰れたような声を出してしまった。




「何処へ行く。目的地は此処だ」

『朝餉が食べたい興味がない。と言うか一人で行けよ、俺関係ないし』




そんな俺の言葉を無視し、あろうことか奴は門を壊して侵入して行く。此奴、ほんと常識ねえな。呆れたように見ていれば騒ぎに気が付いた人間がちらほらと顔を出す。その中に女鬼の姿があった。あれがそうなのかと、関心がなさそうに呟いて傍観を決め込む。だって争い事に巻き込まれるの嫌だし。




「ふははは!今日こそ我が妻を貰い受けるぞ!!」




あっ、またどや顔で言ってるよ彼奴。お前の妻じゃないだろ。そう小声で溢していると何やら視線を感じた。何故か新選組の連中に睨まれる俺。何かやったけ?と軽く首を傾げる。その間にも煩いのが一人、喚いていた。




「てめえ、昨日の…風間の仲間だったのか」

『風間の仲間?勘弁してよ、おにーさん。此奴と仲間とかないない』

「それは此方の台詞だ。虫以上に役に立たん貴様なぞが仲間とは有り得ん」

『虫以下かよ…あー、もう帰ろ。俺の硝子細工の心は粉々だし』

「そう簡単に敵地に乗り込んで来た奴を帰せるかよ!」




帰ろとした瞬間に目の前に刀が突き出される。それを間一髪で避け、相手から距離を置く。何でこうなるのか、さっぱり分からない。俺は強制連行されただけだし、第一戦えない。



戦えない奴、連れてくるとか彼奴は馬鹿だ。普通に人選間違ってるって。天霧とか連れてくりゃあ良いのに。それより新選組は丸腰の…しかも戦えない奴までに攻撃してくんのかよ。ば風間一人にやれよ。




『はいはーい、一つ言いたい事がある』

「遺言ぐらいなら聞いてあげるよ」

『死ぬ事前提かよ…。俺は風間に強制連行された人畜無害な奴だし、そもそも女鬼とかに興味ない。だから殺すなら彼奴だけにしてくれない?俺、関わるつもりないし』

「貴様…裏切るつもりか?」

『裏切るも何も無いだろ。寝てる俺を蹴っ飛ばして無理矢理連れてきたのはお前だろ』

「……確かに、そうだな。だが、裏切るのなら殺すまでの事だ」




そう言って刀の切っ先が此方へと向く。あれ、可笑しいな。何でこうなる?仲間割れを始めたと思ったらしい新選組は呆れた表情で俺達のやり取りを見つめる。見てないで助けてくれ。丸腰で奴から逃げ切るのは難しい。と言うか無理。絶対に無理。十割方死ぬ。




『おいおい、本気かよ…』

「安心しろ。せめて苦しんでから殺してやる」

『普通は苦しまずにだろ?!見てないでどうにかしろよ、新選組!お前等の敵だろ!』

「仲間割れでまとめて死ねば楽だと思ってな。まぁ精々頑張ってくれ」

『ふざけんなよ…おい、風間。お前、分かってんだろうな』




その言葉に風間の眉が動く。何を言っているか分からない、そんな表情だ。分からないなら言ってやろうじゃないか。殺そうとした事を恨むがいい。




『俺に向けた刀を降ろさねえと恥ずかしい過去を暴露すんぞ』

「俺にその様な過去はない」

『ほんとか?…あれは何時の日の事だか思い出してごーらん風間が「ええい!!分かったから、それ以上歌うな!!」




風間の言葉に、にやりと笑みを浮かべる。忘れていたか、俺がお前の弱味を握ってる事を。高笑いしていると物凄く四方八方から視線が突き刺さる。っておい、新選組。何に対して舌打ちした。




「…残念だな」

『一応、聞いておく。何に対しての残念だ』

「風間の恥ずかしい過去を聞けなかった事と、お前等が死ななかった事」

『…駄目だ、まじで帰る。新選組の奴等、俺の心傷付けんの上手すぎだろ…』




おまけに塩まで塗り込んでくるし。此奴等、こえーよ。




その後、とぼとぼと帰る姿が目撃されたとかされなかったとか。




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