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此処は何処だろうか。目覚めて一番最初に口にした言葉は、これだった。見覚えのない室内に何故か縄で縛られた四肢。気を失う前の事を思い出そうと頭を悩ます。そう言えば不意打ちで襲われて逃げた先に…。そう、その先に新選組の奴等が居たんだ。此処は不意打ちで襲ってきた奴等の居場所ではない。第一、こんな処に独りでして置くわけがない。だとすると新選組の屯所か何かか。しかし納得がいかない。この俺が新選組に捕まる理由が分からない。何をしたと言うんだ。勢いをつけ、横たわっていた体を起こす。次いで縛られていた腕と足の縄をほどく。刀が奪われていたが無くても別段困る物ではない。というか使えないし。




『取り敢えず逃げるか…此処に居ても嫌な予感しかしないしな』




障子を開け、近くに人が居ない事を確認すると裸足のまま庭へと降り、目の前に広がる塀を登る。簡単に登り終えるとそのまま塀の向こう側に飛び降りて走り出す。目指すは薩摩藩邸。彼処には他にも荷物があるし、何より匿ってくれる人が居る。今彼処を離れるのは得策ではない。









◇◆◇◆◇◆◇




『あー、やっと戻って来れたわ。疲れたー』

「…何処に行っていた、どら猫」

『その言い方酷くね?俺、どら猫じゃないし』




帰ってきてみれば風間が門前に居り、第一声がこれだった。俺の格好を見て鼻でせせら笑う。まぁ着物はぼろぼろだし、そのうえ裸足。足は土で茶色く汚れている。裏へと周り、井戸から滑車で水を汲み上げ、足を洗う。何故か風間も着いてきていた。




「それで何処に居た」

『何か知らないけど新選組に拉致られてた。その前は例の奴等に襲われるし。着いてねーな』

「新選組だと…?何をした、どら猫」

『だから知らないっての。俺は…、あぁそういや失敗作を見たな』




確かあれに襲われかけて気を失ったんだっけ?血とか駄目なんだよな、俺。そう言えば腰抜けだの何だのと風間が後ろで言いたい放題言うのが聞こえる。おいおい、殴んぞ。




「逃げ出してきたと言う訳か。相も変わらず弱者のままだな、貴様は」

『うるせえよ。俺は刀が使えないし血が駄目な理由も知ってんだろ。この俺様野郎が』

「ふん、吠えたければ吠えろ」

『そのどや顔を止めろ、ば風間』




ばか、と言う部分を強調すれば睨まれたが、それを無視して板張りの縁側へと上がる。与えられた部屋へと入り、ぼろぼろの着物を脱いで新しい着物に袖を通す。袴の帯を締め、着替えを終える。着替え終えた頃にやって来ていた天霧から少し遅めの朝餉を貰い、昨晩から何も食べていない腹が鳴った。




『うまー。やっぱ空腹は最大の調味料だな』

「御代わりを持ってきましょうか?」

『いや、いい。これだけありゃ足りる』




朝餉を食べ終え、手を合わせる。自分で勝手場まで持っていき、使った物を洗う。俺ってえらっ。手を拭き、戻れば奴は相変わらずのどや顔で爆弾発言を落とした。此奴、ほんと嫌だ。




『一人で行けよ』

「貴様にも千鶴の顔を見せてやると言っているのだぞ」

『つーか、お前にそんな権利ないだろ。フラれまくってるんだし』

「フラれてなぞおらん。あれは照れ隠しだ」

『此処に滅茶苦茶イタイ奴が居るんだけど。同心さーん、捕まえて平和になるからー』

「斬り殺すぞ」




おー怖い。大体何で逃げ出してきたばかりなのに行かないとならない訳?此奴、馬鹿なんじゃねーの?ぶつぶつ言いながらも刀を抜かれ、脅されては「はい」としか返事の仕様がない。大きく長い溜め息を吐き出し、履き物を履いて外へと出る。




「少し待て。酒が呑みたい」

『もうお前、死んでくんね?』

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