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地味な女はエロい






「銀ちゃん。この前銀ちゃん、ボンキュッボンの女はエロいって鼻水垂らしながら言ってたアルな」
「ああ、言ってたな。鼻水は垂らしてねェけど」
「私がそれ、論破してやるヨ」


***


時刻は午後二時。新八が買出しへ行っている間、俺はいつも通り、家でゴロゴロと怠けていた。そういえば神楽はどこに行ったのかと、ジャンプ片手で動かせる範囲で首を傾けて神楽を探すと、がらがらと玄関の扉が開いた音が聞こえた。部屋に入ってきたのは「銀ちゃん」と俺のことを呼ぶ探していた同居人で、そいつは真剣な顔をして俺の前のソファに座った。
――そしてまァ、冒頭に戻るのだが。

「なに論破って。つーかお前どこ行ってたわけ」
「名前と姉御のとこアル」
「ふーん。で、なんだって?ボンキュッボンの姉ちゃんはエロいに決まってんだろーが。童貞の新八君でも分かる常識だぜおい」
「ボンキュッボンの女がエロいことに反論はしてないアル」

「じゃ、何よ。」と、俺も真剣になってジャンプを膝の上に置き、神楽の目をしっかりと見て尋ねる。神楽は「じゃあ言うアル」と短く、意味もない深呼吸をして言った。

「ここで私は提示するネ!貧乳の地味な女でもベッドの上ではエロい説ゥゥゥゥゥ〜〜〜!!!」

…………。は?
気の抜けた俺の声だけが部屋に響いた。神楽は尚も真剣な眼差しとトーンのままだ。真剣な顔の無駄遣いだわマジで。つーか何それくそどうでも良さそう。

「銀ちゃん、私はさっき姉御に呼ばれてフラット会に行ってきたアル」
「フラットって何?」
「貧乳って意味ネ」
「じゃあ貧乳会で良いだろ。なにお洒落にしてんだ貧乳如きに」
「うるさいヨ。それで、私達は集まったメンバーの中で、誰が一番乳がデカいのか討論をしたアル」
「ん?ああ、妙とお前と名前の面子でか。その面子でなら名前じゃねーのか」
「それで――」

ホワワワ〜〜ン
「いきなり説明面倒臭くなって回想入んじゃねーよ!」



***


p.m.1: 00


「神楽ちゃん。年上を敬うという気持ちを持って、ここは姉御の方が胸が大きいアル!って言う所でしょう。なのに何マジになって名前さんの方がデカいとか言ってるの。はっ倒すわよ神楽ちゃん」

なんという黒い笑みだ。この女、敵に回してはいけない。神楽と名前はそう思った。しかし、神楽も妙との付き合いは長い。おずおずと、「でも姉御」と神楽は声を出す。

「見るからに名前の方が大きいアル」
「ふふ、そんなことないわよ。名前さん、純粋そうに見えて性格悪いからきっとパッド入れまくりよ。五枚くらい入れてるわよ。AAよきっと。いや寧ろAA−(マイナス)かも」

なんてこと言うの!と、名前が立ち上がる。妙とは普段仲は良いが、『この女、自分の弱点の話のときは人をけなす習性があるな』と思うくらいには二人は仲が悪いのかもしれない。

『てかそんな小さくないし、胸のことになると器小さくないですかお妙ちゃん!』
「あら?じゃあ見せてご覧なさいよ。貴女がパッド10枚入れていることを証明してあげるから」
『ひ、1つしか入れてないって本当に! って……え、何その視線……』
「え?何が?」
『え……?いや何ですか胸ばっかり見て……ほ、本当にパッド10枚も入れてないって!』
「証拠がないもの。ねぇ神楽ちゃん」
「まぁ確かに証拠がないと、信じる振りはできないアル」
『見せても内心信じてないんだなそれ…』
「豊胸かもしれないアル」
『それ見せる意味なくない?』
「揉んだら分かるアル」
『揉むのはアウトでしょ』
「……名前さん?話はまとまったかしら」
「……し、仕方ないな。一回だけだよ!」

ついに名前は折れた。
『仕方ないなあ変態どもに見せてあげるよったく』と若干耳を赤らめながら、ゆっくりと着流しをはだけさせていく。腹部の辺りまで肌が露出すると、薄ピンクのブラジャーが露わになった。「んん??」と妙が額に汗を滲ませながら、名前の胸を凝視する。

「ぱ、パッドは……は、何枚入ってるの?」
『い、1個だけだって!』
「じゃ、じゃあ……豊胸手術でもしたのね?(普通にCかDあんぞこの女)」
『してないですよ!するとしても何でこの微妙なサイズなんですか!』
「微妙って何だコラァァァ!それだけあれば有難いと思わんかいィィ!!」
「姉御本音が出てるアル!」

年下の妙の迫力に、名前がひいいっと涙目になっていた際、妙は絶対豊胸だと過信して、名前の胸を咄嗟に掴んだ。その時妙は思う。あれ?柔らかくね?シリコン部分はどこかしら……と。両手で両胸を揉む姿は変態そのものなのだが、妙は必死すぎてその自覚はなかった。

「あ…あれ…なぜ…柔らかい……」
「姉御姉御!私も触りたいアル!」
「ど、どうぞ、神楽ちゃん。にしても……豊胸にしてはびっくりする程に柔らかいわね。ごめんなさい名前さん、疑っちゃって(パット20枚のこと)……今時の豊胸手術はすごいわね」

そう下からちらりと名前の顔色を伺ったとき、妙の口の動きを思わず止めた。
名前が顔をリンゴみたいに赤らめながら、声を漏らすまいと必死に声を殺していたからだ。
妙の口と手の動きは止まったが、名前の辛さを知らない神楽は依然として「柔らかいアル〜!」と騒いでいる。名前は涙目で辛そうに横の方に首を傾けながら口を開いた。ちらりと髪の下から覗く耳も真っ赤だった。

『わ…わ、私…さ、触られるの苦手で…!っだ、だからもうやめっ……っん…!』
「………」

妙は更に名前を見ながら硬直した。そして思った。エロいと。近年稀に見るエロさだと。
恥ずかしさで真っ赤な顔、クラクラとした涙が溜まった目、息も絶え絶えな辛そうな声、吐息。エロい。この女エロい。地味な顔と身体してエロい。AV女優以上か。

――ちょっとからかってみようかしら。

悶々と湧き上がってきたいたずら心を妙は抑えることなく、さっきと同じように胸を揉みしだき始めた。
ちょっ、と名前が真っ赤な顔で妙を見る。妙はふふ、と笑っている。名前はあかんこの雰囲気流されたらまずいと、妙の胸を押して倒そうとしたが――

『ひっ』

さすが馬鹿力。妙は女子ではない腕力で名前の両手首を壁に打ち付けた。壁ドンネ、と神楽はあんぐり顔でそう思った。

――まずい。まずいまずいまずい。なにこの状況。

名前は終始パニックだった。

『っ、お妙ちゃ… ど、どうしたの?お、落ち着いて…』
「……名前さん、こうされるのは初めて?顔が真っ赤よ」
『…っかっ、か…からかうのも大概に……』
「からかいたくもなるわよ。耳まで真っ赤にさせて…かわいい。食べちゃいたい」

真っ赤な名前の右耳付近で、妙は囁き、そしてふう、と息を吹きかけた。びくっと、大きく名前の肩が揺れる。涙を流すほど混乱している名前を見て、妙は隠すことなく笑みを零す。そして耳に唇が付くくらい近くで、妙は名前にいたずらに話しかける。

「…名前さん」
『…ひぃ、ちょっ、っお妙、ちゃ…』
「なに?」

妙は名前と目を無理に合わせる。くらくらとした動揺を隠せない瞳は見ていて楽しい。妙が口を動かすのと同時に、名前は口をぱくぱくさせる。

「……かわいい。…ねえ、キスしていいかしら?」
『………っ、っも、…やめ……』

言葉が出ないほど、本当に限界に来ている様子の名前を見て、妙は「止まらないわ、これ」と、冷静に気付く。妙はくるりと横であんぐり顔をしている神楽の方を振り向き、「神楽ちゃん。ちょっと名前さんと大事なお話するから席を外してくれるかしら。また今度手料理振る舞うわ」と微笑んだ。神楽は手料理はいいですと片言早口で言うと、早急にその場を去った。


***


ということアル。神楽はうんうんと頷いた。

「……どういう事ォォォォォ!!? あいつのセクハラ行為聞かされただけじゃねーか! つーかあいつ何やってんの変態なのバカなの!?」
「あれはしょうがないアル。私も姉御が居なかったら危うく手を出してたとこネ」
「うるせーよあんぐり顔! つーか何?で、何!?名前はエロいって言いてェの!?」
「Yes, I do.」
「はァ!? …つ、つーかマジで何? それを俺に言ってどうしたいわけテメーは」
「そうアルな……」

神楽は考え込むように、顎に手を当てると、数秒後。真面目な顔をして言った。

「銀ちゃんドエス発揮させて名前のこと襲うなヨ。ぶっ飛ばすからな」
「えっ……えぇぇぇぇ〜〜〜??」


続く。