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優しい配慮



『あの、買い出しって、どこに行くんですか?』
「んー、まあ適当に。どこ行きたい?」
『え』


どこ、行きたい?

意味不明な質問に、思わず身を固めた。まず私は、何の買い出しなのかも聞いていない。あ、もしかして私の質問が悪かったのか。


「腹減ってる? なんか甘いもんでも食いに行こうぜ。良い店知ってんだよ俺」
『え、甘い物…? い、いいんですか?』
「いいよ」
『え、あ…買い出しは? いいんですか?』
「いいよ別に。だってそんな用ねェし」
『…え?』
「大丈夫。奢ってやっから。昨日パチンコ勝ったから、余裕あるし」
『え……』
「はい、助手席でもどこでもいーから乗って」


はい、と促された先にはきれいに白く塗られたプリウスが停めてあった。悠々と運転席に入り込んだ坂田さんを見ながら、ふと思った。

これは…信用していい人なんでしょうか土方さん…怪しすぎるよこの人…。

 「早く」と突っ立っていた私を呼ぶ声が聞こえ、息を小さく吐くと、仕方なく助手席に乗り込んだ。



***



き、緊張する。


「お前なに食う? 俺はもちろん苺パフェだけど」
『え……何にしようかな…』


少し、どこか別の所に連れて行かれるのではないかと不安だった私。なんとか無事におしゃれなカフェに着きました。

向かいには、白い生地に青いストライプが入ったシャツを身に纏う坂田さんがいる。下はスラックス&革靴だから仕事着だとは思うんだよね……にしても急展開すぎて頭が働かないなあ。なんでカフェ来てるの私。もう、イケメンは土方さんだけで十分だよ。

…まあいいや、アップルパイ頼もう。


「女子だねェ、アップルパイなんて」
『……坂田さんもだいぶ女子ですよ。苺パフェって』
「そ? 俺根っからの甘党なんだよね。白米に小豆とかかけちゃう」
『ええ…? それはやり過ぎですよ。糖尿病になりますよ』
「大丈夫。もうなってっから」


救いようがないこのイケメン。


坂田さんの甘党自慢を聞きながら、アップルパイを待つこと十分。店員さんが丸いお盆に高くそびえる大きな苺パフェとちっさいアップルパイを運んできてくれた。パフェと比べたらアップルパイちっさい。かわいいよ。


『い、いただきます』


さんかくのかわいらしいパイの中にはぎっしりと林檎が入っている。そのパイの上にはふんわりと丸く置かれたバニラアイス、そしてホイップ。素晴らしい。

ナイフを用いて優しく切り込みを入れるも、林檎が大きすぎて切るのが難しい。中で林檎が切らないでーと、ふにゃと逃げる。そのとき、視界の中で坂田さんが笑った気がした。


『…っ』


顔を上げて坂田さんを見ると、なぜか私を凝視していた。透き通った赤い瞳と合い、どきっと心臓が跳ねた。肩も跳ねた気がする。びっくりした。イケメン過ぎた。なんでこっち見てんの。


「なにびっくりしてんの」


坂田さんが笑った。うわ、なにその笑い方、かっこよい。かっこよすぎる。びっくりするよ。


『……あ、あ、あの。坂田さん』
「んー?」
『なんで、ここに? いや、店とかの話じゃなくて。なんで私を外に…』
「出て行きたくなかった?」
『……いや、』
「悪ぃ、なんつーか俺のお節介なんだわ。なんか悩み事してたから、息抜きでもと思って」
『あ……そうだったんですか…気を遣わせてしまって、すいません』
「いいや、俺の方こそ」


…なるほど、カフェに連れ来たのは坂田さんの配慮だったのか。…なるほど。


――そうだった。決めなきゃいけないんだった。


「近藤と土方がいる状態じゃ、悩むのも悩めねーだろ」
『……』
「大事なことなら、時間かかってもいいからゆっくり決めろよ。一人で決められねーことなら、俺も相談に乗るし。悩みにくかったり、それか答えが決まったんなら、帰りたいって教えてくれればいいし。自由にこの時間を使ってくれりゃいいから」
『…はい。ありがとうございます』


優しい、素敵な配慮に頭を下げた。
優しい人ばかりだな、とまた泣きそうになってしまった。



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