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分かるわけがない



その日は佐々木さんは普通に泊まっていった。
朝目が覚めたとき、「おはようございます」と横で微笑んでくれたので、なぜか少しほっとした。起きてすぐにおはようと言ってくれる人がいるのは久しぶりだった。

次の日も、佐々木さんは一緒に泊まっていってくれた。
その次の日は、土方さんが。
その次の日は、佐々木さんが。

その次の日、売店へ向かった際、通りかかった入院患者に「あの人あの人」と指をさされた。なんだろう、私があの事件の被害者だってバレたか、と少し焦る。

その次の日、朝?
全身のずきりとした鈍い痛みに眉を顰めながら、目を開ける。佐々木さんではなく、土方さんではなく、坪倉さんが私の目覚めた顔に「良かった。目が覚めて」と、薄く微笑む。
坪倉さんにしては下手な微笑みに、私は何をやらかしたのかと、胸がどきどきとする。お母さんに嘘がバレたときの子供心のようだ。


「坪倉、さん…怒ってます?」


痛みのせいで身体が起こせない。なので、寝転びながらではあるが、坪倉さんに尋ねる。怒られる前に謝るためだ。


「…ううん、怒ってないよ。呆れてもいない。…ただ、すごく悲しいだけ」
「……坪倉さん、私、何かしたんですか」
「…あなたが聞きたいのなら、教えてあげる。でも、びっくりし過ぎないでね」


私は小さくうなずく。
坪倉さんが、私の汗が滲む額を撫でながら、悲しそうに微笑んだ。


「名前さん、あなた、病院に運び込まれた日から、四回も自殺未遂をしているんだよ」


予想通りでも、なんでもないおかしな文章に、私は氷水を頭から浴びせられたように、身体が痛みなど忘れ、硬直した。


――私が、四回も自殺未遂?



「……は、」
「あなたの自殺未遂をした夜の様子を、数回見せてもらったの。でも次の日の朝はいつも通り、元気にあなたはけろりとしてる。最初は自殺未遂をしたことを隠してるだけだと思った。でも違う。あなたは自殺未遂をしたことに気付いていないの、本当に。そうでしょ?」
「……は、い」
「だとすれば、考えられるのはあなたは今極度のストレス状態で、あなたが知らないうちに身体が自殺をするように動いているってこと。二重人格に少し似てるかな。夜になると、あなたの負の感情を集めた人格が現れて、自殺をしようとするの。…ここまで、分かる?」


その質問に、どうしていいのか分からなかった。

ただ答えとして浮かんだのは、坪倉さんの質問に沿った「分かる」「分からない」という質問ではなく、




「……ごめん、な…さぃ」


涙を流しながら、坪倉さんの目を見るのが怖くて目を腕で覆いながら、私はそう口にした。

謝らないで。と、坪倉さんが悲しげに私にささやいた。



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