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おかしい私は下手な呼吸をする



「土方さん」
「…なんだ」
「たくさん言いたいことがあるんですけど、何から言えばいいのか分からなくて、でもとりあえず一つだけはっきりと言いたいことがあるので、言います」
「…なんだよ改まって。怖ェな」


坪倉さんが病室から出て行って数時間後、土方さんが来てくれた。悲しそうな表情だったが「よお。ちゃんと飯、食ってるか」といつも通りに話しかけてくれる土方さんに、安堵したと同時に申し訳ない気持ちが湧き出てきて苦しかった。

だって、土方さんの約束を破り続けてたんでしょ私は。自殺なんて考えんな、もうすんな、って何度もこの人は言ってくれて、こんな面倒臭い私に手間をかけて会いに来てくれたというのに。


「……土方さん。私、精神病院に行きます。それも遠くの。こんな状態が治せるのなら、今すぐにでも精神病院に移りたいです」
「……」
「入院代とか、また色々迷惑をかけてしまうかもしれないんですけど……しっかりと治しますから。…ご迷惑の連続で本当にすいません」
「……名字。俺は何も、精神病院に行くことが最善の方法だとは思ってねェよ。お前は今、混乱していてそうなってるだけかもしれねェ。あと少し、時間がかかるかもしれねーが、俺達の元で――」
「――土方さん。ごめんなさい。私のことは、もう気にしなくて大丈夫ですよ」


身体を起こし、土方さんを見ていた私は、雨がザアザアと降っている窓に視線を写す。
雨だから、尚更部屋の雰囲気が暗くなってしまう。
だから、必死に笑顔を作る。


「私のことはもうポイしちゃって大丈夫です。事件は解決した、そうでしょう?だから、私のことはもう放っておいてください。…どうか、お願いします」
「…名字。俺は別に、仕事でお前に付き合ってるんじゃねえ。俺が好きで、お前に元気になってもらいたいから、お前に会いに来てる。…迷惑とか何もかかってねェから、気にすんなって」
「…迷惑。…迷惑がかかってないわけがないですよ。…私のことをあなたたちが気にかけてくださってるだけで、すごく申し訳ないんです。…もう、本当に気にしないでください。私は一人で大丈夫ですから」


――名字。
と――尚もしつこく、優しく名前を呼ぶ土方さんを、初めて心の底から鬱陶しく、心の底から申し訳なく感じた。

彼の顔よりも、轟々しく泣いている窓の外を見つめる。
窓ガラスに、私のくしゃりとした怖い顔が映る。


「…土方さん、私の不安定さを知っているんでしょう。どう考えても異常なのは、分かっているはずです」
「…異常って」
「…私は早く治したいんです。夜、勝手に自殺しようとしてるなんて、恥ずかしいし、情けないし、かなり迷惑な女でしょ?どんだけ痛々しい女だって、話ですよ。もう本当、痛々しすぎて、笑えてきますよ」


本当、下手な笑いが込み上げてきて、泣きそうだ。
本当、痛々しい女すぎて、笑えて、泣けてくるよ。
…いつから、こうなったんだか。


「…土方さん。私は今、死にたいか、死にたくないか、そう聞かれたらしっかりと選ぶことはできません。…いや、選ぶことができないんじゃなく、どちらとも私の中では意志を持っているんです。だから、夜になると自責に耐えきれなかった私が、死にたい方を選んだ私が動き出してしまう」
「……」
「これは、なんていうか、精神病として凄いことですよ。なんて病気でしょうこれ。精神病を調べてる方に、こんなおかしい女がいるって見せたいくらいです。良い研究対象ですよ、本当。だから早く精神病院に」
「名字、落ち着け」
「落ち着いてますよ。今はね。だから落ち着いてるうちに早く連れて行ってください。夜だと暴れちゃうかもしれないから。土方さん早く――」
「名字」


土方さんが、私の腕を掴んで、自分の方へ注意を向かせようと、腕を引っ張った。
土方さんの顔が視界に入る。
私はうつむく。

一瞬、息ができなくなった。

真剣な顔をしてる彼だけど、私のことを心の中で「怖いやつだな、やばいやつだな」とそう思ってそうで――。


「…ごめんなさい。土方さん、私のこと…やばいやつだって、思ってますよね」
「…思ってねェよ」
「…うそ。だって、やばいやつですもん。毎晩自殺しようとしてるんですよ?…本当に呆れる、馬鹿みたい、みんなが支えてくれようとしてるのに、私は一人自殺に専念するって…。…馬鹿、本当に…情けない…」
「…おい、名字――」
「――ねえ土方さん、私は」




いつから、こんなにおかしくなっちゃったんですかね。
どうして、こんな身体になっちゃったんでしょう。

――私は、死んだ方がいいのかな。




ぼろぼろと涙を流す馬鹿で、おかしい私は、涙腺も馬鹿になっているのだろう。
泣き方も分からなくて、うつむいて、布団に何個もシミを作り、息を必死にしようと肩を震わせる。



土方さんが、泣き止まない私にこう言った。




「……精神病院じゃなく、俺と一緒に、東京に行かねーか。お前に、会わせたい人がいる」



しつこく、優しく、私が惹かれるようなことを吐く彼に、おかしい私はやっぱり惹かれてしまうのである。



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