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優しい貴方と綺麗な夕焼け



待ったか?助手席でも、後ろでも、好きなとこ座れ。
土方さんにそう促され、私は頷くと、助手席に座った。自分でも本当に吃驚する程、落ち着いていた。母のことや、姉のことや、妹のこと。増してや父のことなど頭の片隅からも消えていた。寧ろ自分から消そうとしていた。それと向き合うには、私には労力も時間が必要な気がした。


「悪ぃ。名字さんの家って、次どっちに曲がるんだ?ここら辺の道は慣れてなくてな」
「次は左ですね。土方さんってどこに住んでるんですか?」
「前は東京に居たんだが、今は警察署近くの寮に住んでる。一ヶ月前くらいに、こっちに飛ばされてな」
「東京でクビになったんですか?」
「違ェよ。人手が足りねえって言われたから来ただけだ。あと少し経ったらまた戻るつもりだよ」


へえ。土方さんに相槌を打っていると、土方さんはちらりと私を一瞥して、また視線を前に戻した。頭に疑問符を浮かべている私に気を遣ったのだろうか。お前んとこの事件は、俺が直ぐにでも解決してやかっから、待っててくれ。と片手で頭を撫でられ、私は緩く微笑んだ。こんな状況でも笑えてしまう自分が恨めしかった。





有難うございました。アパートの前で、私は土方さんに頭を下げた。気にすんな、とまた土方さんは私の頭を撫でた。撫でやすいのだろうか。涙腺が緩みそうだからやめてほしい。


「明日、九時くらいにまた迎えに来るから待ってろ。……あ、九時は早ェか?」
「早いですね。お昼くらいが良いです」
「分かった。一時過ぎに迎えに来る。今日は適当に飯食って、風呂入って、ゆっくり寝ろ。何かあったらまた連絡してくれ」
「分かりました。では、また」
「ああ、またな」


土方さんに軽く手を振られ、私はまたお辞儀をした。現在の時刻は六時前。

頭上には、純粋そうな綺麗な淡色の空に黄金色の光が被さって、見事なグラデーションを生み出した夕焼けがあった。私には遠い存在に見えて、私は空を暫く仰いでいた。数分経った後だろうか。一階に住んでいるお兄さんが外に出てきたのに気付いて、自身の部屋に姿を潜めることにした。




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