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悲痛な喚きと哀れな懺悔



がちゃり。部屋に入った私は、鍵を戸棚の上に置いた。フラフラと一週間前の賑やかさを消した廊下を歩く。脳裏に消していたはずのあの情景が、記憶が、声が。何もかも思い出して、私はうう、と声を漏らしてその場から崩れ落ちた。


――名前。ぐーたらしないで手伝ってよ。
――ゲームやろうよ。あれ、昨日進んだとこから。
――あれ、録画した?見たいんだけど。
――今日ホラーやるって!見るぞ。
――いや千里おまえ毎回目瞑ってんでしょうが。
――うるさい。見るもんは見る!
――あれ、でも名前今からバイトでしょ?送るから用意しなさい。


「………バイト、行きたくない」



――名前?



「何でバイトに行かなくちゃいけないの?まだここに…一緒にいたいのに。何で?何で…?……何で私、バイトに行ったんだろう。一緒にいれば…一緒にここに残っていれば…一緒に死ねたのに…!」



――名前はあの人(お父さん)みたいな悪い人になっちゃ駄目よ。



「…ならないよ。なれないよ。だけどあの人はもういないんだよ。復讐しようとしても、何も出来ないんだ。……私一人だけ残っちゃったよ」



――名前さん。お母さんの後を追おうなんて、考えないでね。



「……でも、でも、坪倉さん。佐々木さん。土方さん……私のこの胸の苦しみは、涙は、どこに吐き捨てればいいの?…どうすれば私は……どうしたらいいの……?これから…皆がいなくなっちゃったら私は…!」



――だから名前、暇なら掃除しなさい。



「……やってる。やってるよ。一人で全部やってるよ。最近、言われなくても自分でバイト行ってるし、ご飯も作ってるし、洗濯も、皿洗いも、掃除も、全部一人でやってるよ。……まだ、直して欲しいところある?あるなら教えてよ。早く直すから。今すぐ直すから。……直したら、帰って来てくれるんでしょ?」



そう尋ねようと顔を上げた時、お母さんたちの姿があった。みんな悲しそうに微笑んで、薄く、消えて行った。


目が涙で、ぼやけてしまって、






「……お願いだから、帰って来て」



こんなに苦しい涙は、初めてだった。
悲痛な喚きも、哀れな懺悔も、部屋だけに響いて消えた。ご飯を食べる気も、風呂に入る気も、寝る気も、何も沸かなかった。ひたすら一人で夜が明けるほど、泣いて、気が付いたら眠りこけていた。



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