女兎が啼く | ナノ
『…っ、』
目が覚めれば、そこは部屋だった。汗が背中を伝い、火照っている身体が何故だか震えた。
夢から醒めても止まらない涙は床に落ち、布団に染みを作る。気持ち悪さが身体をかけ巡り、吐き出しそうになるのを何度も堪える。
どうして、どうしてよりにもよってあの時の夢を…!
あいつに触れられた事や、入れられたナカの感覚がまだ残っていて、本当に夢だったのかと疑問に思う。
まさか明晰夢…?
私は布団から体を起こして、シャワーを浴びてこようと立ち上がった。あれ…銀さんの布団…?
「あれ、てか何で私寝室に…。っ、」
頭がガンガンと鳴ってずきりと痛む。泣きすぎたせいかもしれない。
戸を開けて周りを見渡せば銀さんがソファにいた。私の様子を見ると驚いて腰を上げた。
「名前…?お前何で泣いて…」
『え?…あぁちょっと、悪い夢見ちゃって。銀さんが私を運んでくれたの?』
「あァ…そうだけど」
『ありがとう。ちょっとシャワー浴びてくるね』
「…おい待て名前」
銀さんは私の腕を掴み、静かに呼び止めた。振り向くと、銀さんは悲しげな顔をして私の頬に触れた。
冷たい。銀さんの指に触れた水が私の頬に伝う。
あれ、私…。
「…だから、なんでお前泣いてんの?」
『…分からない。勝手に涙が、出るの。私、大事なこと忘れてたみたいで』
「……名前」
『私…忘れてたの、さっきまで。…お母さんが殺されたのに』
「…」
『こんな大事なことなのに。忘れちゃ、いけないのに…!』
「…」
銀さんは何も言わず私を抱きしめ、話を聞いてくれた。しばらく私は彼の胸で泣いていた。
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