女兎が啼く | ナノ
『えっと…キャバで飲んでたら紀蘭の女の子に捕まりまして、それでそのままホテルへ…』
「最初から全く持って意味が分かんないスけど名前さん。まず何でキャバにいんの」
『え…なんか地球のキャバクラってどんな物なのか気になって…。どんなクオリティなのかなあって』
「クオリティ!? なに求めてんのお前は!!?」
『それでなんか女の子好きな紀蘭?だったらしくて…。で、その後吉原…まあいいわソレは…うん、そんな感じ。以上寝る』
「はっ、ちょっと待てオメー!」
ピチンと閉められた扉は、反対側から銀時達が開けようとしている為、ガタガタと音を立てて揺れている。
フフ、言うだけ言った。少しスッキリした。
名前は僅かながらに充実感を覚えながら、扉の取っ手を片側から開けられまいと必死に手で押さえ込むのであった。
「チッ…無理だわ、こいつ力強えな」
「どうしやす、旦那。俺コイツ連れてかなきゃいけねェんですけど」
「知るかそんなもん。つーかホントに名前がそう言ったのかァ?」
「言いやしたよ。給料たっぷり出すっつったら食い気味にオッケーって」
「マジかよ。あいつ何も考えてねーなマジで」
銀時はつれない態度で吐き捨てるように言った。沖田の言葉を
信じてるわけでないが、一回でも真選組で働くと言った名前に嫉妬心を燃やした。
ーー俺んとこにずっと居りゃあいいのに。
「…悪いけど、そういう訳には行かねェんですよ旦那」
銀時の心情を察した沖田が意味ありげに笑った。銀時はその言葉に眉をピクリと上げる。
「コイツ手に入れてえ気持ちは皆同じでさァ。俺も旦那も…、もしかしたら土方さんも。触れたもの全て虜にさせる女を独り占めなんてさせやせんよ」
「…一番独り占めしたがってる奴がなに上から物言ってんだ。挑発する為に来たのか今日は?そうならとっとと帰れ。俺はお前らチンピラ警察とは違って暇じゃねえの」
シッシとあしらうように沖田に向けて手を振った。二人の間にバチバチと見えない対抗線が張ってあるのを新八は察して、思わず息を呑んだ。
そして、その頃。名前は…。
「ZZZ…。Zzz」
寝ていた。数々の疲労により目をつむった途端深い眠りにハマったのだ。呑気に彼女は息を立てて眠る。扉の前で繰り広げられているバトルなど気づかないまま。
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