40万打部屋 | ナノ

あなたと一緒に生きていきたい

!注意!
30万打より過去のお話。





鏡に写っている自分を見つめる。
ナルシストだからではなく、変なところがないか入念にチェックするため。


「うん…、多分大丈夫…!」


成人式です。着物に身を包んでいます。化粧もばっちりです。
たったそれだけなのに、妙にそわそわしてしまう。
鏡に写る自分はまるで他人のようだ。
マルコさんと一緒に選んだ着物は自分にピッタリの色で、違和感はない。
だけど心臓がドキドキとうるさく音をたてる。


「マルコさんに見せるの…恥ずかしいな…」


友達や両親に見せるのにはあんなに緊張しなかったのに、マルコさんに見せると思うと顔が熱くなってくる。
もう一度鏡を見て身なりを整える。……何度目だろうか。
でも愛しのマルコさんには見せたい!
子供だった私が少しでもマルコさんに近づいた。って見せたい。


「よ、よし…。行こう…!」


会社は成人の日に関係なく、休みではなかった。
だけど、「一生に一度だ。行ってこい」とオヤジさんの好意によって私だけ特別にお休みを頂いた。
中学時代や、高校時代の友達と盛り上がって、適当に式に出席して、いざ帰ろうと思ったんだけど、着物のままでいるの苦しい…。
マルコさんに見てもらいたい。「綺麗だよい」って言ってもらいたい。(絶対に言わないだろうけど)
だからマルコさんが帰ってくるまで着物を着たままでいたいんだけど、さっきも言った通り苦しい。
それにこのままだと買い物もできないし、ご飯も作れない。マルコさんにご飯作ってあげるのが私の仕事なのに!
それで出た答えが、「よし、会社に行こう」。
あとオヤジさんにも見てもらいたい!血は繋がってないけど大事な家族だもんねっ。


「………張りきってきたのはいいけど…」


定時あがりの人達にものすごく注目されてます。
そうですよね、着物着てたらこうなりますよね…。


「お、名前じゃねェか!式はもう終わったのか?」
「お疲れ名前」
「あ、エースくん!サボくん!」


冬だと言うのにスーツを着崩したエースくんと、疲れを一切見せない爽やかサボくんとはち合わせた。


「うん。友達とちょっと遊んで、今から帰るとこ」
「成人式かー。懐かしいなー」
「お前は寝てただろうが」
「ああ、酒飲んだ記憶しかねェ」
「その前から飲んでただろ。それより名前、何で会社に?」
「早くマルコさんに会いたくて…」
「かー!羨ましいねェ!俺も嫁にそんなこと言われてェよ!」
「マルコさんだったら帰る支度してたよ。なんかちょっと急いでた感じだったなー」
「ほんと!?駐車場行ったらいるかな!?」
「すれ違うことなくなると思うよ」
「ありがと、サボくん!」
「名前ー、転ぶなよー」
「気をつける!」


変な歩き方になって人に笑われようが関係ない!
駐車場へ方向転換し、いつもの場所に停めてる場所に向かうと丁度車を発進させようとしていた。


「ま、マルコさーん!」


動きにくい着物で走ったため、息があがって声にも力が入らない。
ああ、せっかく身なりを整えたのに乱れちゃった…!


「お前…。ここで何してんだい」
「マルコさんに早く会いたくて…!はぁ…、疲れた…」


私に気づいたマルコさんは車から降りて、呆れたような顔で近づいて来てくれた。
息を整えながら裾や髪を整えて、笑ってみせると「はァ…」と頭を抱えて腕を握られる。


「とにかく座れよい」
「ありがとうございます」


マルコさんに助手席に座らせてもらい、ドアを閉めて運転席へと回る。


「今日は早く帰るっつったろい。何で来たんだよい」
「早く見せたくて…。それにこの恰好だとご飯作れないから…」
「飯なら外で食えばいいだろうが」
「あとオヤジさんにも見せたかったです」
「……」


そう言うと「それもそうだな」といった空気が流れたが、あまり機嫌はよくないようだ。
私また怒らせるようなことしたかな。
ようやく二十歳になったんだから子供っぽいとことか、マルコさんに迷惑をかけないようにしないとって思ったのに…。


「あのマルコさん…」
「名前」
「え?…あ、はい」
「ほら、成人祝い」


可愛くラッピングされた小さな箱を投げられ、慌てて受け取る。
なんて雑な渡し方だ!そういうワイルドなところも好きッ!


「開けて、いいんですか?」
「お前にやったんだから好きにしろい」
「じゃあお言葉に甘えて…」


本人の前で開けるのは恥ずかしいけど、中身が気になるし、何よりマルコさんから貰えたことが嬉しくて丁寧にリボンを解く。
中には可愛い形をした瓶が入っていて、開けた瞬間マルコさんの匂いが広がった。


「これ…。マルコさんと同じ香水の匂いだ!」
「やる」
「瓶も可愛い!わざわざ瓶を買って入れてくれたんですか!?」
「……」
「ありがとうございます!可愛いしいい匂いだし最高に嬉しいですッ」
「…そーかい」
「あ、あとリップグロスも!これもくれるんですか!?」
「いらねェなら捨てろよい」
「いります!ありがとうございます!」


何度もお礼を言ってマルコさんの腕に抱きつくと、少し恥ずかしそうに嫌がった態度を示した。
素敵なプレゼントも嬉しいけど、これを買ったときのマルコさんを想像したら可愛くて、何度も胸が鳴った。


「これ明日からつけますね!あ、でも勿体ない…。どうしようマルコさん!」
「好きにしろよい」
「じゃあ何か大事な日につけます。これで少しは大人っぽく見えますよね!」


いくら背伸びしたってマルコさんや、皆に比べたら私は子供だ。
社会の「しゃ」の字も知らない赤ん坊。
でもオヤジさんの為にこの会社で頑張りたい。
マルコさんの妻としてもっと支えたい。
会社の名を汚さないように、マルコさん恥をかかせないように。


「社会人として、妻としてこれからも頑張ります!」


せっかくの節目だ。自分自身に気合いをいれると、手からリップグロスをとられた。


「マルコさん?」
「確かにお前はまだまだガキだよい」
「いっ」


片方の手で両頬を掴まれ、もう片方の手でデコピンをされた。


「何年経っても朝は弱ェし、」
「あの、」
「空回りばっかだし、」
「う…」
「料理だって未だ失敗ばっか」
「…」
「社会人としても、妻としても未熟だが…」


何で両頬を掴まれているのかが理解できない。絶対変な顔してるよ、私…。
でも…。何だか楽しそう、嬉しそうな、そんな声で喋るマルコさんに、抵抗する気なんて起きなかった。
唇に走る冷たい刺激。
何をされているのか解らなかったけど、その台詞を最後に頬を離してくれた。両頬が少しだけヒリヒリ痛む。


「女としては最高だよい」


そう言って笑いながら私の鞄に入れてあった鏡を出した。
鏡に写るのは私。だけど今さっき見たときとは違う私が写っていた。


「女ってのは怖ェな。口紅だけで変わりやがる」
「……マルコさん、リップグロスです」
「うるせェよい」
「ふふっ。ありがとうございます!マルコさんは世界一いい男ですね!」
「おう」


鏡を私に渡し、車にエンジンをかける。
私は何度も鏡を見て、写る自分に微笑む。
自分のことを可愛いなんて思ったことないけど、リップグロスをつけた私は何だか大人っぽく見えて好きだ。


「ああ、忘れてたよい」
「へ?どうし―――」


マルコさんの言葉に顔をあげると、すぐに柔らかい感触が唇に当たった。
キスをされたと理解したときにはすでに離れていて、顔だけが赤く染まる。


「ん、味も悪くねェな」
「……ま、マルコさん…!」
「それと、その着物は買ったんだよな?」
「いきなり何するんですか!そ、そりゃあ嬉しかったけどいきなりは…。勿論そんなマルコさんも好きですけど…!」
「話聞けよい」
「あ、すみません、つい…。……って、これマルコさんと一緒に選んだ着物じゃないですか!酷いです、忘れたんですか!?」
「いや、確認しただけだい。一つでも借り物があると大変だろい?」
「……大変って何がですか?」
「さあて、今度こそ帰るよい」
「ちょっとマルコさん!話をはぐらかさないで下さい!」


その理由は家に帰ってからよぉく理解できました。





匿名さんへ。



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