40万打部屋 | ナノ

冗談の本音

「名前、愛してるよい」
「ははっ…」


大変です。事件です。本当に事件です!
マルコさんがマルコさんじゃなくなりましたっ…!


「どうした?抱きしめてほしいのかい?」
「え?」
「それともキスがいいかい?どっちでも名前が望むならしてやるよい」
「いいいい今はいいです!」
「そりゃあ残念」


今日は結婚記念日です。
だから今日はうんとマルコさんに甘えよう!そしてデートに行こう!
と昨日、張りきって寝ました。
そのときのマルコさんは「面倒くせェ…」といった顔だったけど、付き合ってくれると言ってくれました。
うん、ここまではいい。
んで、朝起きたらこうなっていました。

まず起きた私にキスをしてくれました。いつもなら私がねだるのに。(それでもしてくれないけど)
朝食は新聞を読みながら食べるのに、今日は爽やかに笑いながら私が作った朝食を褒めてくれました。いつもなら「焦げてる」とか文句言うのに。
デートは正午前。いつもだったら私がソワソワして、マルコさんが「落ちつけよい」って言うのに、今日はマルコさんがソワソワしてます。
「テレビ見ませんか?」と誘うと、嬉しそうに笑って私を膝の上に乗せて抱きしめます。

………おかしいでしょう!?

逆なのよ!私とマルコさんの立場が逆になってるんだよッ…!
クールなマルコさんがどっかいっちゃった!


「名前、そろそろデート行くかい?」
「マルコさんから「デート」って単語を聞くとなんかゾワッとします…」
「じゃあ…逢引?」
「それはちょっと古い気が…」


アハハー…。と引きつりながら笑うと、マルコさんはフッと笑って抱きしめる力を強めた。
首筋に顔を埋め、「名前」と何度も何度も名前を呼ぶ。
う、嬉しいけど…。なんかくすぐったい…!慣れてないのがよぉく解るね、うん。


「何時に出る?」
「正午ぐらいですかねー」
「じゃあそれまで時間はたっぷりあるな」


腰を掴まれたまま、クルリと反転させられた。
ソファの背もたれに押し付けられ、目の前のマルコさんはニヤリと口端をあげる。


「ほ、本当どうしちゃったんですか!?」
「何がだい」


だって!いつものマルコさんなら小説読みながら時間潰すし、何より朝からこんなことしません!
それに「愛してる」って言葉も滅多に言わないし、まずマルコさんからキスをねだりません!


「名前が可愛すぎるからだよい」


マルコさんんんん!?
そう、悲鳴をあげる前にいつもとは違う、優しいキスをしてくれた。
唇が触れる程度の、本当に優しいキスだったけど、私の肩はピクリと跳ねる。
すぐに離れて真っ赤になった私を見るマルコさんは満足そうに笑っている。
少年のような笑顔に、胸が高鳴る。……初めてみたよ、こんな笑い方をするマルコさんっ…。


「名前、こっち見ろい」


恥ずかしくなって目だけを反らすと、顎を掴まれ元に戻される。
ドキドキと早くなる心臓。
い、いつものマルコさんにもときめくけど、…これもこれで心臓に悪いよ…!
無意識のうちに身体がマルコさんから距離を取っていたけど、ソファの上にいるせいでそれ以上は離れることができない。
逃げたとしてもすぐに捕まってしまう。
あと少しでキスができるほど顔を近づけ、腰に手を回して上下に動かす。触り方がもうっ…!


「マ、マルコさん…」
「ん?」
「近いっ…」
「名前の顔が見てェからな」
「あー…、もう…何なんですか…」


恥ずかしいから離れてほしいのに、マルコさんは離れようとしない。
だから目を瞑って羞恥から逃げると、腰を撫でていた手がお腹へと移動して、思わず目を開けてしまった。
ニヤニヤと笑うマルコさんに、「わざとですか…」と呟くと「俺を見ねェ名前が悪い」と言われる。


「いつも触ってほしそうにしてるだろい?だから触ってやってんだい」
「そうですけど…」
「攻められるのは苦手だもんなァ…。そこが名前のいいとこだけどな」


虐めると思ったら、甘い言葉を囁くマルコさん。
何度心臓が止まったか…。何度私を胸キュン死させれば気がすむんですか!
そんなことしなくても、言わなくても私はマルコさんに夢中ですってば!


「俺のほうが名前に夢中だよい。だから、もう我慢できねェ」


一度私から離れ、背中と膝裏に腕を通して抱きあげる。
所謂(いわゆる)お姫様抱っこというのをされ、ベランダへと移動するマルコさん。
何でベランダ?何が我慢できない?何………ナニ?


「せっかくの天気だ。外でしたら気持ちいいかもな」
「………えええええ!?」


予感的中!
一瞬血の気が引き、悲鳴をあげて暴れるも、解放してくれなかった。
あっという間にベランダまで到着し、締めていた鍵を解除する…。
外でするって…!そ、そんなのやだよ!丸見えじゃん!それに声だって聞こえたら…ッ!
でも、何より楽しそうに笑うマルコさんの顔が怖い!


「マルコさん、私「なんてな」―――え?」


ベランダの手すり付近に下ろされ、「外でするのは無理です」とハッキリ拒絶しようとたら、そう言われた。


「今日は結婚記念日だな」
「……あ、はい…。そうですね…」
「正直、記念日なんて興味ねェが、お前が一カ月も前からうるさけりゃあ準備せざるを得なかった」
「ご、ごめんなさい…。…ん?」
「今回はちゃんとお前のサイズに合わせて買ってきた」


ほら。とポケットからラッピングも何もされてない指輪を取り出し、私に手渡す。
銀細工の土台に光る一つの宝石。これ、私の誕生石だ…。


「……箱とかはないんですか?」
「ラッピングなんかできるかよい」
「してもらえばよかったのに」
「長時間いられるかい」


選ぶのに時間がかかったんだろうか。
それとも、ラッピングしてもらってる時間が恥ずかしいんだろうか…。
どっちにしろマルコさんらしいなァ…。


「朝からおかしいからどうしたのかと思いました。……今さっきだって…」
「ああ、驚かせてやろうと思ってな」
「心臓が何度か止まりましたよ…」
「そりゃあよかったよい」
「でも…。ありがとうございます」


記念日にプレゼントを貰えるなんて思ってもなかったから、凄く嬉しい!
指輪を握りしめ、指にはめる。うん、今度はサイズもピッタリ!


「一生大事にしますね!」
「墓にも持って入れよい」
「勿論です」


そう言ってマルコさんに抱きつく。
抱きしめてもらうのも好きだけど、やっぱり私から抱きつくほうがいいかな。
マルコさんに迫られるのって何か苦手なんだよね…。色気凄いからすっごい恥ずかしくなる。


「ほんと、冗談でよかったです。迫られるの苦手だし、外なんて無理だし…」
「誰が冗談なんて言った?」
「へ?」
「名前のワガママを聞いてやるんだ。勿論、俺のワガママも聞いてくれるよな?」
「……きょ、拒否権を「あるわけねェだろい」


ああ、神様。
どうか今さっきまでの優しかったマルコさんに戻して下さい。
じゃないと死ぬ!羞恥心で死ねる!

その「冗談じゃない」という言葉に、「愛してる」の言葉も含まれているのに気付くことはなかった。





茉莉花さんへ。



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