40万打部屋 | ナノ

まだ未熟な君

高校三年生。最後の学園生活だから思いっきり楽しみたい!
そういう学生が多いけど、私は十分幸せな毎日を過ごしている。
まさかマルコさんと結婚できるとはっ…!
未だに実感なんて湧かず、ただ毎日をニマニマと過ごしている。
勿論、お嫁さんとして家事もしている。学校だって真面目に通っている。これがマルコさんとの約束だからね!


「よし、終わった!」


掃除洗濯も終わり、夕食の準備も完璧。…ちょっと失敗しちゃったけど。
マルコさんが帰ってくるまでもう少し時間があるので、学校の課題に手を伸ばす。
解るところはさっさと終わらせ、解らないところはマルコさんに聞こう!
教えてくれるマルコさんはスパルタだけど、メガネ姿とか格好いいんだよね!
見惚れてたら「真面目にしろい!」って殴られたけど、そういうところも好きッ。


「あ、雨だ…」


ふと、窓の外を見るとさっきまで天気がよかったのに、いつの間にか曇っていた。
パラパラと小雨も降りだし、時間が進むにつれ激しさを増していく。
……今日、マルコさん車じゃないよね。傘も持ってないだろうし、…どうしよう。


「バス停までなら…」


会社まで行ったら怒られる。(と思う)
入れ違いになったら困る。
だけど、バス停までなら一本道だし、きっと怒らない。
課題を広げたまま私服に着替え、二本の傘を持ってマンションを後にする。
雨は激しく、傘を差しているというのに足元が濡れてしまった。


「迎えに行ったら驚くかな、「何で来たんだよい」って。でも「さすが俺の妻だよい」って褒めてくれるかも!きゃー、マルコさん好きー!」


傘をクルクル回しながらバス停に向かう。
角を曲がって、あとはその道をまっすぐ進むだけ。
何時に帰ってくるかは解らないけど、この待ってる間も二人の愛を育む大切な時間なんです。
デートの待ち合わせをしている気分になっていたのに、目の前の光景に思考が停止した。
目の前にはマルコさんと、その隣に知らない女の人。
一つの傘の中に二人が入って、とても楽しそうに笑っていた。
先に気がついたのは女の人で、私を見て首を傾げる。次にマルコさんが気づいて私を見る。


「名前じゃねェか。何してんだい?」
「知り合いですか?」
「ああ、俺の妻だよい」


マルコさんの言葉に、女の人は目を少しだけ見開いたけど、さほど驚いた様子ではない。


「ご結婚されてたんですね」
「少し前にな」
「そうでしたか。あ、可愛いお嫁さんが傘を持ってきてくれたみたいなので私はこれで…」
「悪かったな」
「いえ、こちらこそ」


マルコさんから傘を取り、私に頭を下げて先に歩き出す。
すれ違う瞬間、口元に笑みを浮かべ、私を横目で見た女の人に、「この人は危険だ」と脳が判断した。


「わざわざありがとな。……名前?」
「マルコさん…。あの女性誰ですか?」


駆け寄ってきたマルコさんに傘を渡し、ジッと見つめるとマルコさんは首を傾げた。


「受付嬢だよい」
「何で一緒に帰ったんですか…?!」
「傘がなくて困ってたら誘われたんだい。途中まで一緒だし、断りにくかったんだよい。何を怒ってんだい?」
「怒りますよ!マルコさんのバカ!」
「お前さんが来るなんて知らねェよい」
「うっ…!でも嫌です!私、あの人嫌い!性格最悪ですッ」


傘を握りしめて文句をマルコさんにぶつける。
あの人絶対マルコさんのことが好きなんだ。きっと私が見てないところでマルコさんに近づいてるんだ。
そう思うと泣きたくなるほど腹が立ってきた。
悪口も止まらない。


「ガキかよい…」
「ッ!」


呟いたマルコさんの言葉に、顔が瞬時に熱くなった。
我慢していた涙もボロボロとこぼれ落ち、持っていた傘をマルコさんに投げつける。
解ってるよ…!こんなのただの子供の嫉妬だし、心狭いし、ワガママだし…。
でも、


「マルコさんのバカッ!嫌いッ!」


マルコさんが好きなんだ。
好きすぎてどうしたらいいか解らない。
結婚できて嬉しいけど、毎日が不安ばかり。
距離が近くなって色々なことを考えてしまう。
そのうえあんな綺麗な人がマルコさんの隣を歩いていたら不安になる。
早く大人になりたい。もっと綺麗になりたい。マルコさんの隣を歩きたい。


「名前ッ!」


背中を向けて走り出す。
涙が溢れてくるけど、雨のおかげでどっちか解らない。
とにかく走って、走って。体力が切れたところでようやく足を止める。
声を出して泣きたいけど、それこそ子供っぽいのでなるべく声を押し殺して泣き続ける。
あんな人に、妻としての対応なんて私にはまだ無理だ。
一度止めた足を再び動かし、近くにあった公園に入る。
いつもならたくさんの子供で賑わっているんだろうけど、雨のためいるはずもない。
コンクリートで固められたドーム型の遊具に入り、雨宿り。
小さくなって自分を抱きしめ、悶々とこれからのことを考える。
今さっきはカッとなってあんなこと言っちゃったけど、本当に嫌いになるはずがない。
感情に任せてどうして言っちゃったんだろう…。謝らないと。でも今は無理…。
鼻を鳴らして、顔を埋めると、近くで水を踏む音が聞こえた。


「見つけた」
「ま、マルコさん…!」


息を少し切らしたマルコさんが、外から覗き込む。
まさかマルコさんが追いかけてくれるなんて思ってもみなかった。
驚いて涙が止まり、鼻水をすすると、マルコさんに鼻で笑われる…。


「ほら、風邪引くから帰るぞ」
「……」
「名前早くしろ」
「ごめんなさい…」


子供でごめんなさい。嫌いって言ってごめんなさい。傘を投げ付けてごめんなさい。
震える声で謝罪をした。止まったはずの涙もまたうっすらと浮かんできた。


「気にしちゃいねェよい。それが名前だからな」
「…」
「俺も悪かったな。ガキだって気にしてんのにあんなこと言っちまった」
「……それは「名前」


言葉を遮られ、マルコさんを見ると手を私に差し伸べ、笑っていた。


「おいで」
「マルコさんッ…!」
「俺はでけェからそこに入れねェ。だからお前から来い。いつも受け止めてるだろい?」
「…逃げてる」
「ハハッ、そうだったな」


涙を拭い、手を取って外に出る。
そのままマルコさんに抱きつくと、傘を手放して私を抱きしめてくれた。


「帰るか」
「はい!相合傘しましょう!」
「今更差しても意味ねぇだろい」
「やだ!」
「…ハァ。お嬢さん、これで満足かい?」
「キスしてくれたらもっと満足です」
「調子にのんじゃねェよい」


一つの傘に二人が入り、家までの短い距離をゆっくり歩いた。





朔さんへ。



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