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とびっきり優秀な医者

「エースさん…。オヤジ殿、よくなりませんね…」
「ああ…」


白ひげが倒れた日から数日が過ぎた。
船長の指示がないので船を動かすこともできず、先日遊んだ島の近くの沖にずっと停泊している。
いつも元気なエースやサッチだけでなく、隊員達も隊長達もどんどんと元気をなくし、モビー・ディック号に暗雲が立ち込めていた。
誰もが白ひげの体調をよくなることを願っているが、部屋から出てこないのを見ると呼吸ができなくなるぐらい苦しくなる。
泣きそうな顔をしている名前の頭を撫で、自分も泣かないよう歯を食いしばった。


「ここにいたのかい」
「マルコさん」
「どうした?」
「船を出すから準備しろい」


白ひげが体調を崩し、その間代わって指示や面倒を見ていたマルコは少しやつれていた。
まだ若い隊員達を元気づけ、食糧の調達や船の管理…。いつも以上に自らの身体を酷使させている。


「ここにいても埒が明かねェからな…。もっと大きい島に行ったほうが薬も手に入るってもんだろい」
「そう…だよな。よし、俺ストライカー出して近くに島がねェか調べてくる!」
「それは助かるよい。俺もあとから行く」
「お、俺も何か…!」
「名前は大人しくここで留守番してろい」
「でも……」
「俺らに任せとけって!」


かぶっていたオレンジ色のテンガロンハットを名前にかぶせ、ニィ!といつもの笑みを浮かべるエースに、名前は黙って頷く。
本当は白ひげの為に何かしたい。しかし、幼い自分では何もできない。エースについて行ったとしても、きっと足手まといになるだろう。
悔しさを胸の奥におさめ、テンガロンハットのツバをつまんで深くかぶった。


「マルコ!」
「イゾウ、どうした?」


そこへ、イゾウが走ってやって来た。
マルコ以上に冷静なイゾウが慌てているのに一瞬戸惑ったが、ただ事ではないと判断し、身体に緊張が走った。


「オヤジの容体がよくなるかもしれねェぞ」


息を切らせながら、少しの希望を運んできた。


「どういうことだい?」
「よく知らねェが、医者だと名乗る男がやってきたんだ。最初は警戒してたんだけどよ、「絶対助かる」って豪語すんだ」


つい先ほど、小舟に乗った一人の男がこのモビー・ディック号に辿り着いた。
現在気が立っている隊員達がすぐに捕まえたが、彼は「医者」だと名乗り、「白ひげを絶対助ける」と豪語するではないか。
藁にもすがる思いの彼らは近くにいたイゾウに相談し、イゾウはマルコを呼びに来た。
話を聞いたマルコは眉間にしわを寄せて、黙って歩き出す。
エースと名前はお互い顔を見合わせ、マルコの後ろをついていき、イゾウはマルコを男の元へ案内する。
男がいる場所には人だかりができており、マルコが近づくとクルー達はさっと左右へ散って行く。
男は白衣をまとい、首には水玉のマフラーを巻いている。
怪しげな眼鏡を額につけ、マルコと目を合わせると、「ヒヒッ」と肩を震わせ笑い、手を差し出す。


「初めまして、不死鳥マルコ」
「テメェ何者だい?」


差し出す手を無視し、鋭い視線で男を睨みつける。
覇気を飛ばすも男にはあまりきいてないみたいで、また「ヒヒッ」と笑って手を白衣のポケットに戻した。


「俺は医者だ。白ひげの容体が悪いとちょっと小耳に挟んで助けにきた」
「見るからに怪しそうなテメェにオヤジを診せられるか。死にたくなかったらさっさと消えろい」
「こう見えて俺ァとびっきり優秀な医者だぜ?同時に科学者でもあるけどな」
「マルコー、医者って言うなら見てもらったほうがよくねェか?」
「エースは黙ってろい。こいつからは「好意」ってのもんが感じられねェ」


マルコの言葉に、男を囲っていた隊員達が武器を取り出す。
しかし殺気に満ちたその場に、「あの…」と不釣り合いな声が響く。
エースから離れ、マルコの横に立っていた名前が男に恐る恐る話しかける。
マルコやイゾウが「下がってな」と優しく声をかけるも、名前は引かなかった。
マルコの殺気にあてられても余裕な笑みを崩さなかった男だったが、名前の顔を見て顔を険しくさせた。


「本当にお医者さんなんですか?」
「……ジョ、…。……ああ」
「オヤジの体調、本当によくなりますか?」
「ああ、なる」
「じゃあお願いします!」
「名前ッ!こんな怪しい奴、オヤジに会わせるわけにゃあいかねェよい!」
「でも、今現在よくなってませんよね…。だったら、色んなことにチャレンジしないと!やれることはやりましょうよ!」


それは、自分自身に言っているようだった。
本人は笑顔を浮かべ、クルー達に向かって明るく振舞っているようだったが、実際は声が震え、顔も引きつっていた。
白ひげに「笑え」と言われてから泣かないでいた名前だったが、ここまで白ひげに会っていないと笑顔を浮かべることも作ることもできない。
だから、無理にでも笑顔を作ってクルーと自身を元気づける。
よくなると信じて、男に希望をたくす。


「……解ったよい…。但し、全員がテメェを見張る。少しでも怪しい真似してみろい、すぐにあの世逝きだよい」
「ヒヒッ。了解了解。ありがとうな、お嬢ちゃん」


甲板に置いてあった黒いカバンを手に持ち、背中を向けて歩き出していたマルコの後を追う。
名前の横を通るとき、「よしよし」と動物を褒めるような声で名前の頭を撫でながら褒めた。


「なんだァあいつ…。名前を動物扱いしてたな」
「そうですか?でも、きっと優しい人ですよ」
「なんで?」
「だって撫で方がエースさんやサッチさんより優しかったもん」
「ほー…。俺のは雑だって言いてェのか?」
「だ、だって本当のことじゃないですか…!」
「じゃあもう一生褒めてやんねェ。帽子も返せ」
「やだ!これエースさんから貰ったんだもん!」
「やってねェよ!返せ!」
「やー!」
「エース、名前ちゃんを虐めてねェであの男を見張ってろ」
「ちょ、銃で脅しながら言うなよ!見張ってくるっつーの!」
「名前ちゃん、俺達も行こうか」
「はい!」


仲間達に続いて、名前とイゾウも白ひげの元へと向かった。
そして次回。この男が事件を起こす。



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