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オヤジの一喝

「オヤジッ!」
「オヤジ!」


小型のボートでモビー・ディック号へと戻ったサッチとイゾウは、すぐに白ひげがいつも座っている場所へと走って向かった。
仲間達が山のように固まっていたため、なかなか白ひげの元へと近づけない。
二人を呼びに行ったエースがわざと炎を出して人混みをかきわけ、一本を道を作る。


「オヤジ殿!オヤジ殿ー!」


一本の道の向こうに、大きな人間と小さな人間が寄り添っていた。
白ひげはイスから崩れ落ち、甲板に倒れこんでいる。
ナース達が慌てて処置を取っているのだが、人間病気に勝てても年齢には勝てない。
いくら薬などでよくしても、それは先延ばしにしているだけ。
病気とは違う。解っているから、マルコをはじめとした隊長達や隊員達は何もできないでいる。


「やだ…。やだやだ!」


隊長や隊員達は大人だ。ある程度の覚悟だってしていた。(それでもよくなってほしいと心の中で強く願っているし、よくなると思っている)
だけど幼い名前にはその覚悟ができていない。
大粒の涙をボロボロとこぼしながら、白ひげの足に泣きついている。
ナース長が何度も名前を白ひげの傍から引き離そうとしているが、名前は頑なに拒否をしていた。


「エース、何があったんだ?」
「……」
「エース!」
「あ、ああ…。実はな」


ストライカーでモビー・ディックへと帰ってきた二人は、すぐに白ひげの元へと向かった。
ドーナッツ島のことを適当に説明し(ほとんど意味が解らなかった)、声を揃えて「行きたい!」と主張する。
この船の末っ子と、その次に若い息子に白ひげも「ダメだ」なんて言えない。所謂(いわゆる)、親バカである。
マルコが追いついたときにはもう遅く、ドーナッツ島へ行くことが決まって、マルコは白ひげに「甘やかすなよい」と溜息をついた。


「そのあと、……突然倒れたんだ…」


いつものように「グララララ!」と笑ったあと、ゆっくり前に倒れた。
最近、身体の調子が悪いと言っていたけど、そんなのいつものことかと思っていた。
突然のことにエースと名前はパニックに陥り、駆け寄って声をかけ続けた。
そうしている間にもマルコはナースを呼び白ひげを任せ、ストライカーを動かせるエースにサッチとイゾウを呼びに行くよう指示をし、隊員達には白ひげに近づいたりしないよう注意を呼び掛けた。


「オヤジッ…!」


顔を歪めて帽子で隠すも、エースの肩は震えていた。
今さっきまで普通に笑いあっていたから、なおのこと苦しいんだろう。サッチは思う。
エースの肩に手を置いて、名前に視線を持っていくと、ナース長に無理やり引き離されている最中だった。
大事な人をまた失いたくない。その強い思いが少し離れているサッチの元まで届いてくる。


「見てらんねェな…」


オヤジも名前も…。
そして何もできない自分が情けない。いや、腹立たしい。
力強く拳を握り、涙を堪えながら「死ぬな」と何度も心の中で呟いた。


「名前ちゃん、そこにいたら治療ができないから…」
「やだ!」
「名前、あとはナース達に任せとけ。俺らじゃあ…残念だけど何もできねェよい」
「やだ!」
「そこにいたら邪魔なんだい。こっち来い」
「やだああああ!オヤジ殿ォ!死んじゃやだあああ!」
「―――名前…」
「ッ!オヤジ殿!」


息が荒いまま、身体をゆっくり起こしてイスにもたれる白ひげ。
名前に続いてクルー全員が「オヤジ!」と声をあげた。
わあ!と近づいてきそうになったクルー達を、マルコやサッチといった隊長達が止める。
起き上がった間にもナース達が急いで注射をしたり、薬を運んだりと慌ただしく動き始めた。
白ひげの足に泣きついていた名前は鼻を何度も鳴らしながら、涙で汚れた顔で見上げる。


「ひでェ顔だな、名前…」
「っひく…!だっ、だっで…!オヤジ殿が…!」
「俺ァ白ひげだ…。死なねェよ」
「でも、…でも倒れて…!俺がワガママ言ったから…?負担だった?」
「名前…」
「もうワガママ言いません…、ごめんなさい。冒険もしない…!だからオヤジ殿、死なないでッ…!」


一度止まった涙がまた溢れ、腕や手で何度拭っても止まらない。
小さく震える名前の頭に大きな手を乗せて、優しく…壊さないように頭を撫でた。


「バカ野郎…。ガキはワガママ言ってなんぼだ。それを聞けねェほど俺の懐は狭かねェよ。冒険がしたいんだろう?じゃあ行ってくればいい。どこに行こうが、何をしようがお前らは俺の息子で、娘だ」


名前に笑って、回りで泣きそうな顔をしていたクルー達にも言えば、ワアアア!と大の男達が数名が声に出して泣き始めた。


「たかがガキのワガママで倒れてられるか」
「でも倒れて…」
「こんなもん、酒飲んで寝りゃあまたよくなる」
「……オヤジ殿、俺…何をすればいいですか?」
「笑え。ガキの笑顔が何よりの薬だ」
「っ…はい!俺もう泣いてません!」
「そうだ、それでいい。テメェら、末っ子が笑ってんだ。いつまでも暗い顔してんじゃねェぞ」


白ひげの一喝に、「オヤジィ!」と少しだけ明るい声が甲板に響いた。
しかしやはり数名、嬉しさのあまり名前より酷く泣くのだった。



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