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ドーナッツ島

「よいしょ…」
「名前、どうだい?」
「あとちょっとです!」


白い砂浜に座り、砂粒がついた手で流れる汗を拭った。
当たり前のように頬についた砂粒を、隣にいたイゾウが手で優しく取ってくれる。
目の前にいたマルコは少し眉を寄せるも、文句までは言わない。


「通った!」
「さすがだよい、名前」


マルコと一緒に作った砂のお城に通り道を作った。
これでお城が完成し、満足気に喜ぶ名前を保護者のマルコとイゾウが「偉い偉い」と褒めてあげる。
傍から見れば父親と母親が娘を溺愛しているように見えるが、彼らは色んな意味で名前を溺愛している。
マルコは持ち前の器用さを生かして名前が喜ぶようにお城に細工をしてあげたり、イゾウは崩れそうな場所を最初以上に強く固めたり…。
ともかく、名前の笑顔が見たいために砂のお城を作り上げた。たかが砂のお城、されど砂のお城である。


「はっ!なんだよ名前。ちっせェなァ」
「見ろ!俺とサッチの力作、砂オヤジだ!」


柔らかい雰囲気が包む三人に、暑苦しい兄二人がやってきた。
自慢げに見せる「砂オヤジ」は、本物に及ばないがそれなりに大きく作られ、ポーズもしっかり決まっていた。
砂と海水でここまでのものが作れるのか…。とマルコは二人を少しだけ関心し、イゾウは珍しく声に出して笑った。


「うわー、サッチさんとエースさん凄いです!器用!」
「一番気合いをいれたのはひげなんだぜ!」
「俺がやろうとするとサッチ怒るんだぜ…」
「お前は雑だからな!」


今度はエースとサッチと名前が笑う。
だが、何か異質な視線を感じ、真剣な顔になったサッチが急いで名前の腕を掴んで後ろに隠す。
呆気に取られながらサッチ、エース、マルコ、イゾウと順番に顔を見ると、全員が真剣な顔である場所を睨んでいた。
サッチの後ろに隠れたまま名前もそちらの方向に視線を向けると、木々の間から知らない人物や出てきた。


「ああ、すみません。邪魔するつもりはなかったんです」


出てきたのは島の住民であろう男で、睨まれていることに気がつき、慌てて手を上にあげた。
男の言葉にマルコ達は警戒心を解き、男に謝罪する。
緊張していた名前もホッと息をついてから、サッチを見上げると「大丈夫みてェだな」と頭を撫でられた。


「白ひげ海賊団がいるって聞いてたんですけど、まさかここにいるとは…」
「ああ、すぐに帰るよい」
「いえ、皆さんなら構いません。悪い噂なんて聞いたことありませんから」


笑って近づいてくる男がチラリと名前を見る。
名前は何だか恥ずかしくなってサッチの後ろに隠れたが、エースに「名前?」と名前を呼ばれたあと、ちゃんと前に出て「こんにちは」と挨拶をする。
それを見ていた保護者二人は顔を背けて小刻みに震えていた。


「女の子がいたんですね」
「可愛いだろ!俺らの妹なんだぜ!」


上機嫌に笑いながら名前の頭をグシャグシャに撫でるエースに、名前は文句を言うも手を止めてもらえなかった。
そんな二人を見て男は「せっかく出会ったんだから…」と、色々な質問をしてきた。
この島に誰かがやってくるなんて珍しいことで、外のことを聞きたいとも言ってきたので、サッチやエースが今まで体験したことを話してあげる。
名前はマルコとまた砂のお城を作りながら時々話に加わっていた。


「いい加減喋るのも辛いな…。なァ、逆になんか面白い話ねェの?」
「面白い話ですか?」


サッチが男に質問すると、男は真剣な顔で何かを考えたあと、ゆっくり顔をあげた。


「この島ではありませんが、あそこにある島についてなら…」
「あそこ?」
「はい、あそこです」


男が指さすのは遥か向こうにある島。
目を細めてようやく影がうっすら見えるぐらい遠くにあり、サッチとマルコには見えなかった。


「あの島なんかあんのか?」
「はい」


「シナズ島」。通称「ドーナッツ島」と呼ばれるその島には、不思議な力を持つ「水」があるらしい。
なんの力かははっきり解らないが、「死人が蘇える」とも「若返る」とも言う。
その「水」を求めて何人もの島民や、海賊達があの島に入って行ったのだが、誰一人として帰ってはこない。


「おお、何だかワクワクしてくるな!」
「エースは冒険好きだもんな」
「サッチも好きだろ!?」
「嫌いじゃねェな」


その理由が島に住む動物や虫達。
とても凶暴で、そして強い。強いものだけが生き、弱いものは死ぬ世界。
特に最近、凶暴性が増したらしく、島に近づくと動物達の唸り声をよく耳にするという。


「マルコより凶暴なのか?」
「え?」
「エース、口がすぎるよい」
「はい、すみません」
「エースさん、口がすぎますよい」
「名前に言われたくねェ!てかマルコの口真似すんな!マルコは喜ぶな!」
「痛い!」
「「エース!」」
「いでっ!」
「いや、今のは名前が悪いだろ…」


砂のお城を作り終えた名前がマルコの真似をしてエースをからかうと、すぐに頭を殴られた。
しかし、エースもマルコとイゾウに頭を殴られ、名前と同じように頭を抑えながら痛みに耐える。
始終を見ていたサッチは呆れながら溜息をはき、男に笑って「騒がしくて悪い」と謝罪したあと、続けて質問をした。


「でもよ、そんな強い動物がいるのに何でお前らはここに住んでんだ?」
「ああ、それはあの島に生えてあるダフトグリーンのおかげです」


ドーナッツ島と、とある島だけに生えてある木々、ダフトグリーン。
その木々から発生する緑の粒子を動物は嫌い、近づくことができない。
それが春島にたくさん生えてあるから島から出たくても出れず、また海にもダフトグリーンによく似たサンゴが生えているため、海中生物も海を渡ってこの島には来れない。


「へえ…。そんな植物があるんだな」
「エースくん、ちゃんと頭に入りましたかー?」
「ば、バカにすんなよ!そういうサッチはちゃんと理解したのかよ!」
「エースよりはな」
「嘘つけ!」
「話の途中途中で暴れんな!」


ケンカする二人をイゾウが首根っこ掴んで抑えつけた。
名前は三人の様子を苦笑いで見たあと、隣に座っていたマルコを見上げる。


「春島なんですね」
「春が好きかい?」
「ポカポカして気持ちいいです!」
「俺も好きだよい」
「お揃いですね!」
「あ、春島ではありませんよ」
「え?でも春島にダフトグリーンが生えてるって…」
「ああ、あの島は少し特殊でね」


男は困ったように笑って、丁寧に説明をしてくれた。

島は中心に近づくにつれ、標高が高くなる。その中心が秋島で島を見渡すことができる。
秋島を囲うように冬島がある。冬島と秋島の間には断崖絶壁の谷があり、落ちれば岩がむき出しになった海へと投げ出され、生き残ることは不可能。
そのおかげか、秋島には凶暴な動物はいない。
冬島は急斜面。凍てつく寒さと一番凶暴で強い動物達がいる、ドーナッツ島の中で一番過酷な島。
冬島を囲うように夏島がある。冬島と夏島の間にも断崖絶壁の谷があり、多少標高が低くなるものの、転落すれば命はない。
夏島はたくさんの虫が生息している。小さいながらも圧倒的な強さを誇っており、大型動物さえ餌食となる。
しかし冬島に比べて標高が低く、小高い丘程度。
夏島を囲うように春島がある。夏島と春島の間には海水と淡水が混じった川が流れているが、勿論その川にも凶暴な生物が泳いでいる。
春島は島の入り口。どの場所に船を停泊させ、島に上陸しようと最初に降りるのは春島。
春島は平地でともあって一番過ごしやすく、たくさんの大型動物や虫達が生息している。


「ああ、だからドーナッツ島なんて呼ばれてんのか?」
「はい、そうです」


エースの言葉に男はニッコリ笑いながら頷いた。
形は歪だが、島が島を囲っているから「ドーナッツ島」と呼ばれている。


「何だか楽しそうな島だな!」
「エースは元気だねェ…。俺ァそういう場所に好んで行こうと思わねェな…」
「イゾウさんは冒険嫌いですか?」
「名前ちゃんは好き?」
「凶暴な動物は怖いけど、冒険は好きです!」
「ああ、俺も好きだ」


今さっきのマルコとの会話とよく似たやりとりに、サッチは呆れたように息をつき、男は楽しそうに笑った。



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