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明日に備えて…

「で、何があったんだ?」


夏島に向かう為には川を渡らないといけない。
しかし、太陽はすっかり沈んでしまい、川の幅も広い。
夏島に行くのは明日にするか。というエースに、名前は近くから木の枝などを集め、キャンプの準備を整える。
先ほど仕留めたイノシシを口いっぱいに頬張りながら名前から事情を聞く。
捕らわれていたときのこと、怪しい花のこと、特効薬のこと、ハルタのこと…。
全てを話終わるころにはあんなに大きかったイノシシが骨だけになっていた。


「ハルタはマイペースだよなー」
「そうですけど…。でもちょっと薄情です」
「まァそう言うなって。だってあの男の目的はオヤジだけど、俺らでもあるだろ?」
「え?」
「俺らが殺されて、オヤジの絶望する顔が見てェとかなんとか言ってた。逆を言うなら俺達が死ななきゃオヤジは大丈夫ってことだ」


ハッハッハ!と笑いながら乱暴に名前の頭を撫でると、名前は口を尖らせて「そうですけど」と言葉を濁した。


「それよりお前が無事でよかった。心配したんだぜ」
「俺も心配してました…」
「俺らが死ぬわけねェだろ?」
「……」
「お前も俺が守るってやっから。だからいつもみたいに笑え!」
「え?ちょ、うわっ!」


口元に怪しい笑みを浮かべ、名前を襲う。
驚いている間にわき腹をくすぐった。
満天の星空の下に響く名前とエースの笑い声。
笑い声が響くなか、便乗するかのように動物達の鳴き声が二人の耳に届き、動きが止まる。


「忘れてた…、この島危ねェんだよな」
「い、痛い…!お腹痛いっ…」
「でも睡眠は取らねェとな!うし、名前、寝るぞ!」
「寝る、んですか?でも危ない…」
「バカか。俺がいんだろ。妹の一人ぐれェ守ってやる!」
「エースさん…」


任せろと親指を立てるエースに名前は感動しながら「さすがです」と目を輝かせた。
すぐに火の近くに寝床を作り、火がすぐ消えないようにと木々も集める。
その間にエースは軽い罠を周囲に作ったり、警戒したり、危ない動物がいるものならさっさと倒してその場に放置。こうしておけば他の動物や昆虫に警告ぐらいにはなるだろう。効き目があるかは解らないが。


「あ、そうだ。俺エースさんに帽子返さないと…」
「そう言えば名前に預けたままだったな」
「ちょっと汚しちゃいました…」
「いやいや、お前が頑張った証拠だ。ありがとよ」


名前から受け取ったテンガロンハットを、嬉しそうに受け取ってかぶる。
いつも一緒だったからか、少し離れていただけでこうも懐かしく感じるものなのか。
それは名前もだ。
いつも一緒で、遊ばない日はなかった。一日離れていただけで不安で不安で…。
ここで会えたのは運がいいのか悪いのか解らないが、今自分といるなら全力で妹を守らないといけない。


「明日も大変になるからな。頑張ろうぜ!」
「はい!」


よしよし。と頬を撫でるエースと力強く返事をする名前。


「だけどよ…」


だが、エースは苦笑するような顔で名前から手を離した。


「何で俺とお前、寝る場所近ェんだよ…!」
「だって怖いじゃないですか。俺気配とか解らないし…」
「俺が守るから安心して寝ろって。な?」
「…でもお昼寝のときは「昼寝とはまた別のお話です」…解りました…」


エースの言葉にしょんぼりと落ち込んだ名前はその足で作った寝床に近づき、名残惜しそうに自分の枕、モビー・ディックリュックをエースから離れた場所に置いた。
チラリとエースをジッと見つめる。目は「怖い」と訴えたいた。
その目、甘えたそうにしている目に弱い兄は、グッと息を詰まらせる。
でも、だからって一緒に寝たいとは思わない。
だって珍しく肌を露出しているんだぞ。何で今回に限って頑張ったんだ!雰囲気変わりすぎだろ…。変に意識してしまうのは名前が珍しい恰好をしているからで、俺はおかしくないし悪くない。
と心の中で名前を責めるも、口には絶対に出さなかった。


「じゃあ寝るぞ。木は全部火にぶっこんどけ」
「はい…」


元気のない返事にエースは何も答えない。
少し離れた場所で横になる名前を見て、「俺は悪くない」と何度も自分を擁護する。
一日ぶりに再開できた喜びもあるが、珍しく女の子らしい恰好をした名前に困惑もしている。
そりゃあ大事な妹に手を出すつもりなんて、これっぽっちもない。(マルコに殺されるだろうし)
でも今の名前と一緒に寝ると寝れない気がした。睡眠は大事だから絶対に取りたい。明日からもっと厳しい戦いになる。


「だから俺は悪くない」


落ち込んだ名前の顔がチラチラと浮かぶたび、否定をする。
すると、ふっ…と自分の顔に影がかかった。
意識していなかっただけに少し驚き、顔をあげると名前がモビー・ディックリュックを持ったまま立っていた。


「ど、どうした名前…?」
「怖い」
「は?」
「怖いです」
「ああ、動物とか昆虫とかだろ?何度も言うけど「エースさんと一緒に寝たいです…」


リュックを抱きしめながら泣きそうな顔でお願いをしてくる妹を拒否することができるだろうか。
少なくとも、シスコンであるエースにはできなかった。


「えへへ、やっぱりエースさんの身体は温かいですね!」
「そうですね…」
「夏島が近いけど、夜は寒いなんて聞いてませんでした」
「俺もビックリです…」
「エースさんの筋肉は温かい!……あ、メラメラの実を食べたから温かいのかな?」
「もうどっちでもいいですから寝て下さい…!」
「明日も大変ですもんね!おやすみなさい、エースさん!」
「はい、おやすみなさい…」
「そう言えばエースさんは珍しく服着てるんですね。脱がないんですか?暑くないんですか?なんかいつもエースさんっぽくないんで脱いで下さいよ」
「名前ちゃん、このタイミングでそういう発言は止めなさい」
「でも変な感じだし…」
「もう寝ろ!」


心の中で涙を流しながら横を向いてあげて、名前を安心させるよう抱きしめてあげる。
先ほどとは打って変わり、満面の笑みを浮かべる名前のテンションは異様に高く、きゃー!とはしゃぎながらエースの胸筋に抱きつき、いかに自分が今の状況を楽しんでいるか、嬉しいのか説明してくれた。
逆に、イヤだと言うのに最悪の状況になってしまったエースは覚悟を決めて一緒に寝てあげる。
すぐに寝息を立てる名前。


「そういやァ…、こいつはサバイバル初めてなんだよな…」


何せ大事に大事にされている妹だ。
誘拐されるのだって初めて。あんな強くて怖い生き物と戦うのも初めて。


「よく頑張ったな」


まるで自分のことのように嬉しそうに笑って名前を少し抱き締めた。




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