エースと再開 「ハァ…」 リュックをギュッと握り、名前は呆れたように溜息を吐いた。 先ほどまで一緒に行動していたハルタは名前の隣におらず、小高い丘の上にある桜の木に寄りかかりながらズルズルと地面に腰を下ろす。 「もー…だから真面目に行こうって言ったのに…」 ドリルモグラを倒したハルタと名前は秋島に進もうとしていた。 しかし、ハルタが途中で変な生き物を見つけたり、いかにも怪しい洞窟に入ろうとしたり…。 彼は本来の目的を軽く忘れ、寄り道を繰り返していた。 だから名前が思い出させるように、 「ハルタさん!早くオヤジ殿のところに行きましょうよ!ここは危ない島なんですよ!?」 「名前、オヤジは死なねェ。それより今度はあっち行ってみようぜー!」 と言うも、彼は冒険に夢中で、名前の言葉は全て無視された。 白ひげのことは心配だが、敵のの本来の目的は「自分」達だ。 自分達が死ななければ白ひげの命は安全。解っているからの余裕。 しかし、名前にはそれが解らない。 早く助けたい。と強く思っているが、自分の力では到底秋島へは辿り着けない。 秋島だけじゃなく、次の夏島に行けるかも解らない。 不本意だが寄り道をしているハルタの後ろを大人しくついて行っていたのだが、ハルタが寄り道をした草原で巨大なダンゴムシの群れに襲われてしまい、はぐれてしまった。 声を出してハルタを呼ぼうとすれば猛獣にバレてしまう。視覚のみを頼りに懸命にハルタを探すが、いつまで経っても彼を見つけることはできず、太陽がオレンジ色に染まろうとしていた。 「疲れた…」 ここまで運よく動物に見つからなかった名前の頬を桜の花びらが撫でる。 膝を抱いて少し弱音を吐いたあと、バッと顔をあげてリュックを地面に降ろす。 「ご飯食べよう!」 腹が減っては戦はできる。と白ひげ海賊団ではよく耳にする言葉を思い出し、名前はリュックから持ってきたお菓子を取り出す。 お菓子がご飯だなんて、きっと保護者のマルコとイゾウは怒るだろう。 「マルコさんいないからたくさん食べれる!」 ガサガサと袋を裂いて中からチョコレートを取り出し、頂きます。とチョコレートを持ったまま手を合わせると、また桜の花びらが名前の頬を撫でた。 「きれーい!」 くすぐったかったけど、桜の雨に感動しながらチョコレートを口に含んだ。 「…………えっと、これ食べたいの…?」 尋常じゃない桜の雨に、名前が樹上を仰ぐと桜と同じ色をしたライオンが自分を見下していた。 ゴロゴロと喉を鳴らしながら尾をバタバタと左右に振るライオンを見て、一気に名前の身体に緊張が走り、口に含んでいたチョコレートをまだ形あるままゴクリと胃袋に送った。 「に、逃げないと…!」 リュックを背負い、その場から逃げようとするが、ライオンはそうはさせてくれなかった。 太い幹から飛び降り、名前の前を塞ぐ。 また別の道から逃げようとしたが、やはり素早い動きに名前の退路は断たれてしまった。完全に名前で遊んでいる。 「どうしうようどうしようどうしよう!」 パニックになりつつも銃だけは構え、震える手で狙いを定める。 ライオンは尾を立てて左右に揺らしながら名前との距離をジリジリと詰める。 一歩近づくたびに、二歩後退する。とうとう桜の幹に追いつめられてしまった。 「―――戦うんだっ…!」 追い詰められ、逃げれないと解ったら妙に冷静になれた。 未だ手は震えるが、キッ!とライオンを睨みつける。 勝てるとは思わない。だからせめてここから…、ライオンから無傷で逃げよう。 銃は構えたまま、片方の手で太ももに巻いていたホルダーから違う銃を取り出し、持ち替えた。 「やあ!」 持ち替えたのは小型の銃。 発砲するやすぐに白い煙が名前とライオンの視界を遮り、背中を向けてその場から逃げ出した名前だったが、肌を露出している部分に軽い痛みが走って、顔を歪めた。 走りながら後ろを見るとライオンが鋭い爪で桜をなぎ倒していた。 ギラリと光る爪と倒れる桜を見て、ゾッとする。あのままあそこにいたら桜のように自分も―――。 飛んできた木片で少し傷を負ったが、逃げるのに支障はない。 煙幕は次第に薄れていき、とうとう居場所がバレてしまった。 すぐに追いかけてくるライオンに、名前は走り続ける。 小高い丘を降りたところにある川に飛び込めば大丈夫。その川を目指して後ろを振り返ることなく走り続ける。 「…なに、この声?」 そんな中、遠くから声が聞こえた。 一つは耳に触る悲鳴に似た鳴き声。一つは叫び声。 「ッ!もうここまでッ…!」 しかし、名前のすぐ後ろからも鳴き声が。 牙をむき出しにしたライオンがすぐそこまで迫ってきており、あと少しで名前を噛み殺せる距離だった。 「だあああ!テメェいい加減にしやがれ!」 口を大きく開け、名前を食べようとした瞬間。 遠くにいた声がすぐ近くまでやってきた。 シュッ!と風を切る音が聞こえたあと、後ろを見るとライオンが忽然と姿を消しているではないか。 それに通り過ぎる瞬間に聞こえた声は、 「ッエースさん!」 「名前…?」 探していた仲間だった。 名前に気がついたエースは目つきを変え、乗っている鎧を着た大型イノシシに向かって火拳を放った。 火はすぐにイノシシを丸焼けにし、その場に倒す。 会えた嬉しさに目を潤ませながらエースに近づく名前に、エースも嬉しそうに手を振り返してくれた。 「なんでエースさんが!?」 「オヤジとお前を助けるために決まってんだろ。つーか何でお前がここにいんだ?」 「えっと…ちょっと色々あって…」 「あー、ちょっと待て。今晩飯を確保したとこだ。持っていくの手伝ってくれ」 「はいっ」 丸焼けのイノシシをエースが持ちあげ、名前がエースと自分の荷物を持って川へ向かう。 この川は春島と夏島の境目であり、近づくにつれじめじめと暑苦しくなってきた。 汗を流す名前を見て、エースは笑う。片方の手で名前の頭を撫でながら「暑ィな」と言うが、彼は火なので暑くない。 それを知っている名前だが、ニッコリ笑って「そうですね」と返した。 ( ← | → ) ▽ topへ |